ファイナンス 2019年7月号 Vol.55 No.4
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「Ed Tech」と学校外教育・受験や補習、語学学習などニーズの強い学校外教育サービスに対し、アプリケーションやオンラインプラットフォームなどの「Ed Tech」が導入・活用されることは、一定の質を確保したサービスが、利用者の居住地にかかわりなく、比較的低いコストで提供できるとの利点をもつ。・これによって、都市部以外に居住する学生等、塾などの学校外教育へのアクセスが限られる消費者にとっては恩恵が大きいと考えられる(図表6)ほか、幅広い所得階層の世帯におけるサービスの利用可能性を広げるものと考えられる。・一方で、教育サービスにおいては、消費者(子供またはその親)が提供されるサービスの質についての情報を、事前には完全に得ることができないという性質がある。学校外教育において、価格競争だけではなく質と価格のバランスのとれた市場が発展していくためには、「Ed Tech」事業者によるサービスの差別化が図られるとともに、消費者に質に関する評価についての適切な情報が提供される必要がある(図表7)。図表6 学習塾数の地域差(2017年)3,9843,4423,2953,2562,7732,5912,1911,6943223213163022792782352040東京大阪愛知神奈川埼玉兵庫千葉福岡山形高知秋田佐賀岩手福井鳥取島根5001,0001,5002,0002,5003,0003,5004,0004,500(箇所)図表7 オンライン英会話サービス利用時に重視した点17.618.220.022.522.522.932.6サポート体制の充実対応コースの多さ無料体験レッスンの回数口コミの評判予約のしやすさ講師の質料金の安さ35302520151005(%)「Ed Tech」と学校教育・「Ed Tech」は、学校教育の質の向上にも役立てる可能性がある。学校教育で提供される集団授業では、生徒個々人のニーズに合わせたきめ細やかな教育内容の提供や、様々な分野に関する一定の専門的知見を踏まえた教育を幅広く提供する事は難しいが、「Ed Tech」によってそれを補うことが考えられる。・実際に、「Ed Tech」の活用により、ICT化によって教員の支援システムを構築するほか、生徒の学習データや指導内容をデータ化することで最適な指導方法確立を目指す動きも出てきている(図表8)。・こうした方法の実践が、どのようなかたちで実際に学校教育の質の向上につながっていくのかは、必ずしも現時点で明確ではないが、様々な実証によってエビデンスが増え、今後「Ed Tech」のさらなる改良と教員の活用指導力の向上が進むことにより、「Ed Tech」の学校教育における活用のメリットが幅広く認識されることが望ましい(図表9)。図表8 学校教育における「Ed Tech」学校のICT化推進・校務支援システムの導入・教員向けICT研修やアクティブラーニング研修の実施 (主体的・対話的な学びによる深い学びへの改善)学習データによる効果検証・教師・⽣徒・指導内容・学⼒テスト成績履歴を紐付け・⽣徒の学⼒や教師の指導⼒の変化を把握 (大学と連携したエビデンス・ベースの教育改善)オンライン学習 環境整備・豪州とのオンライン英会話レッスンを実施「一斉授業」の 弱点補完・個人の学習記録データ分析に基づき最適な学習素材を提供・各人の能力・才能を幼少期に把握・前世代の傾向から開花しやすい分野や最適な教育 ステップを把握図表9 教員のICT活用指導力の推移505560657075201720162015201420132012201120102009200820072018(年)80(%)授業中にICTを活用して指導する能力児童・生徒のICT活用を指導する能力(出典)野村総合研究所「EdTech市場の現状と課題」、ベネッセ教育総合研究所「学校外教育に関する調査2017」、経済産業省「第3次産業活動指数」、日本マーケティングリサーチ機構「子どもの英語教育に関する意識調査」、「平成29年特定サービス産業実態調査」、MMD研究所「オンライン英会話の利用に関する調査」、経済産業省「未来の教室」とEdTech研究会、文部科学省「平成29年度学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果」 (注)文中、意見に関る部分は全て筆者の私見である。 ファイナンス 2019 Jul.53コラム 経済トレンド 61連載経済 トレンド

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