ファイナンス 2019年7月号 Vol.55 No.4
54/80

評者渡部 晶成蹊大学法学部 編教養としての政治学入門ちくま新書 2019年03月 定価1,000円(税抜)「あとがき」に記載されているが、本書は、成蹊大学法学部が2018年に創立50周年を迎え、その記念事業の一環として発行された。法学部政治学科の教員12名が、自らの研究分野を踏まえつつ、政治(学)の面白さと大切さを一般読者に伝えることのできる原稿を1冊(新書本)にまとめ、学問のすそ野を広げようと試みたという。構成は、大きく3つに分野を分け、Ⅰ日本と世界(第1章~第4章)、Ⅱ歴史と思想(第5章~第8章)、Ⅲ比較と地域(第9章~第12章)となっている。はじめに(今井貴子・執筆)では、全体を概観する。オーウェルの評伝などでも知られる政治学者バーナード・クリックのことば「政治は、相異なる利害が共存する事実を受け入れるところではじめて生起する」を引き、「政治は面倒でひたすら手間がかかる。だが、それを引き受けることこそが、野蛮から離れる叡智である」と述べる。第1章〔日本政治〕「議院内閣制と政党政治―日本がいかなる政治システムの国か?」(高安健将・執筆)では、英国型議院内閣制や米国型大統領制を巧みに紹介しつつ、日本の議院内閣制の特色を考察する。ポツダム大学のシュテフェン・ガングホーフの議会と政府に関する類型論を紹介し、英国型議院内閣制や米国型大統領制のハイブリットとしての半議院内閣制(議会が分立しており、政府が議会の一部にのみ依存するタイプ)という新しい知見を示す。半議院内閣制の理念型に即して、これまでの日本の諸改革の蓄積を踏まえ、今後をみれば、「二院制の活用」(両院の役割分業を反映させた選挙制度改革や、参議院の問責決議と予算関連法案の扱い)が重要なテーマになるという。第2章〔行政学〕「公務員制度批判について考えよう」(西村美香・執筆)では、「年功序列の公務員制度は生ぬるい?」、「公務員の給与は高すぎる?」、「公務員の天下りはなぜなくならない?」、「日本の公務員は多すぎる?」といった市井の疑問に、行政学のこれまでの知見を踏まえて、回答を試みる。私見では、特に、日本の公務員の数は多すぎる「神話」は、なんとか打開できないかと常々思っており、ぜひ、冷静な学問の成果が理解されることを願いたいと思う。第3章〔地方自治〕「権限と財源から見た地方自治」(浅羽隆史・執筆)も、これまでの長い地方分権の議論を踏まえた的確な分析を示す。まず、地方自治にグローバル・スタンダードはないと指摘していることが印象深い。日本の自治体をみても、千差万別だ。「これを、同じような制度の下で運営しなければならない点に、地方制度の難しさの一端がある」とし、「とくに、財源面において自治体に大きな格差が生まれている」とする。特に、成蹊大学も所在する武蔵野市についての言及が示唆深く感じた。武蔵野市は、政策の実験場として様々な先駆的な取り組みをしてきている。このような独自性は、豊かで持続的な財源に支えられているということを改めて認識させられた。浅羽教授が指摘するように、「法人所得課税の国税化と安定した財源の地方税化」は、日本の将来を見据えてあらためて真剣に取り組むべき課題であろう。第4章〔国際政治〕「現代世界における戦争と暴力」(遠藤誠治・執筆)は、国際政治学の最も重要なテーマは、E・H・カーの「危機の二十年」以来、戦争と平和の問題であるが、依然としてそうなのは、戦争を回避し持続的な平和を築くという問題への十全な回答をいまだ提供できていないことに理由の一端があるという。遠藤教授は、これまでの国家間紛争や内戦を考える上では、「理想論」的ではあるが、富と力の極端に不平等な配分についての転換を考えた大きな構想力が必用だという。イギリス学派の古典としてヘドニー・ブルの「アナーキカル・ソサエティ」が参考文献に挙げられているのが意義深い。第5章〔政治理論〕「官僚制の思想史―デモクラシーの友か敵か?」(野口雅弘・執筆)は、「官僚制」を思想史的にアプローチする。まず、官僚制(英語:bureau-cracy)の語源を解説するが、この言葉は18世紀にフランスで生まれた時から負のイメージとともにあるという。マックス・ウェーバーの考察が手慣れた形できちんと紹介され、「官僚制の合理性」という近代組織にとって必要なものを理論化したという。しかし、一方で、野口教授は、丸山真男やアーレントの全体主義下での官僚への50 ファイナンス 2019 Jul.FINANCE LIBRARYファイナンスライブラリーライブラリー

元のページ  ../index.html#54

このブックを見る