ファイナンス 2019年7月号 Vol.55 No.4
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産業投資は、政策的必要性が高く、リターンが期待できるものの、リスクが高く民間だけでは十分に資金が供給されない分野にエクイティ性資金等を供給する産投機関に対する出資及び貸付である。産業投資は、特別会計に関する法律第50条において、「産業の開発及び貿易の振興のために国の財政資金をもって行う投資」と規定されており、政策性と収益性という2つの要件をそれぞれ満たす必要がある。2018年度末で5兆6,968億円の出資及び貸付を行っており、融資業務等のリスクバッファ、投資の直接の原資等に使われている。近年では、官民ファンド向けの出資など、投資の直接の原資としての産投出資が使われる割合が増えている。日本経済の成長力強化等につながる産業の開発及び貿易の振興の観点から、民間投資の状況を見ると、新産業の創出、ビジネスの新陳代謝の促進、日本企業の海外展開等に係るエクイティ性資金の供給が一層必要であり、産業投資は、民間資金の呼び水・補完としての役割を果たす必要がある。他方、産業投資が出資している官民ファンドは、全体で累積損益はプラスであるが、一部のファンドでは累積損失が生じている。このような状況を踏まえ、財政制度等審議会財政投融資分科会では、投資の直接の原資としての産投出資を中心に、今後の産業投資について検討を行い、令和元年6月14日に報告書として取りまとめが行われた。報告書概要は以下の通り。1産業投資の役割・課題等(1)産業投資の意義政策性と収益性という二つの要件をそれぞれ満たす必要。国際的な競争環境の中で日本経済の成長につながる戦略的な投資で、かつ収益性が見込まれる案件への投資。(2)産業投資の役割①民間投資の状況を踏まえた産業投資の役割民間投資は増加しているが、引き続き、以下のような課題があり、産業投資を活用して対応を図ることが重要。▲新産業の創出:レーター段階やリスクプロファイルの確定が難しい案件、バイオ等への投資▲ビジネスの新陳代謝の促進:先取的な投資のリスクテイクや民間の資金供給主体の投資能力強化▲日本企業の海外展開:ソフト面の補完、海外の技術等を日本企業の成長に取り込む戦略的な投資②産業投資の執行上の課題近年、官民ファンドなど、投資の直接の原資としての産投出資が増加しており、これに対応した産業投資の管理運営を検討する必要。③産投機関(官民ファンド)の執行状況産業投資が出資している官民ファンドは、全体で累積損益はプラスであるが、一部のファンドでは累積損失が生じている。(3)投資効果の最大化海外では以下のような取組を行っており、これらも参考としつつ、政策効果の発揮や効率化につながる場合には、産投機関のあり方の見直しを検討。▲英:投融資の機関を一元化▲独:官民ファンドの民間資金割合を段階的に増加、民間ファンドの投資能力を支援今後の産業投資について(令和元年6月14日 財政制度等審議会財政投融資分科会報告)財政投融資総括課 前課長補佐 髙山 菜月48 ファイナンス 2019 Jul.SPOT

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