ファイナンス 2019年7月号 Vol.55 No.4
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マネーに交換価値を「チャージ」した場合の債権関連磁気情報は個人の所有権の対象ではなく、通貨であれば当然に具備している価値保存の機能の面からは劣る*13。また、いわゆるキャッシュレス支払手段の世界は激しい競争、早い技術進歩等を背景に、提供されるサービスの内容も多様化、変化が早い(同一主体の提供するサービスでも、クレジットカード紐づけで開始後、銀行口座紐づけタイプが新規に加わる等)。特に2018年以降、我が国のキャッシュレス化を巡っては、支払手段に着目したサービス展開、競争、効率化等に関する議論が前面に出ているが、現金等の「通貨」には支払手段、すなわち価値交換手段以外にも価値保存、価値尺度の機能が具備されている。「キャッシュレス」支払手段は、様々な主体が提供する各種サービスの総称ととらえられるが、それらは支払に際しての現金の代替手段にはなり得ても、価値保存、価値尺度の機能を具備した通貨と同等の財であるとは限らないこと、取扱い・サービス提供主体のリスクに関する情報は、どこまで利用者に認識されているのか。これらの点に関しては、金融リテラシーの向上が図られるべき分野であるかもしれない。参考資料European Commission(2018)“The Digital Economy and Society Index(DESI)2018”PRO, https://www.pro.se/Riksbankskommittén[Riksbank Committee](2018)“Tryggad tillgång till kontanter[Secure access to cash]SOU 2018:42”Skingsley C.(2018)“Considerations for a cashless future” speech, Sveriges Riksbank, 22 Nov 2018Sveriges Riksbank(2017)“The Riksbank’s e-krona project report1”Sveriges Riksbank(2018a)“Payment patterns in Sweden 2018”Sveriges Riksbank(2018b)“The Riksbank’s e-krona project report2”Swedish Civil Contingencies Agency(2018)“If Crisis or War Comes”(注)本稿は、財務総合政策研究所が2018年-2019年に開催した「デジタル時代のイノベーションに関する研究会」(座長:柳川範之東京大学大学院経済学研究科教授)に参画した筆者が、研究会の報告書に執筆した論文を基に作成したものである。報告書には研究会参加の有識者、財務総合政策研究所、在外公館職*13) 例えば筆者が保持する記名式交通系電子マネーの証票の裏面には、所有権は交通事業者に帰属すること、最終利用日から10年が経過するとチャージデータが失効することが明記されている。モバイルペイメントの中にはこれ以上に短期(5年)のデータ失効期間が設定されているものもあり、休眠口座の取扱と比較すれば、価値保存機能面の差異は明らかである。員の論文等が取りまとめられている。御関心のある向きには、是非、御一読いただきたい。(URL:https://www.mof.go.jp/pri/research/conference/fy2018/digital2018.htm) ファイナンス 2019 Jul.47スウェーデンのキャッシュレス化・ドイツのキャッシュレス化(上)SPOT

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