ファイナンス 2019年7月号 Vol.55 No.4
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(4) スウェーデンのキャッシュレス化・ 我が国のキャッシュレス化ア. 商業銀行マネーを核とした簡潔な体系のスウェーデン、多様なサービスが競う日本以上、見てきたように、スウェーデンにおけるキャッシュレス化は、商業銀行マネーがデビットカードやモバイルペイメントにより使い勝手を向上させた結果、中央銀行マネーへのキャッシュアウトを伴わずに利用されるようになり、その流れが加速、結果的に中央銀行マネーの使い勝手を悪化させ、外部ネットワーク効果を低下させている状況にあるといえる。スウェーデンにおける個人のカード保有状況をみると、平均してデビットカードとクレジットカードを各1枚(図表5)、モバイル決済はSwishと簡潔であり、銀行口座を核とし、プラットフォームが多数分立することなく、利用者に定着してきているとみられる。これに対し、我が国では、旺盛な企業間の競争を背景に、各個人が主要国ではシンガポールに次ぐとされる枚数のカードを保有し(図表5)、モバイル決済についても2018年には多数のアプリがキャンペーン合戦を繰り広げる環境下、選択に迷うほど多数の支払手段が提供されている。サービスの内容にもよるが、銀行口座等に直接、紐づけされていない支払手段の場合、現金によるチャージが行われ、その拠点もコンビニATMなど多様化している。また、交通系電子マネー等の普及が進む一方、維持される駅の券売機の有効活用等の観点から、モバイルペイメントサービスの*12) 例えば、https://www.boy.co.jp/kojin/benri/hamapay/を参照。一環として現金引出の拠点として利用する試みも始まっている*12。キャッシュレス・ペイメントサービスが次々と提供されることで、現金が介在するシーンが増加しているともいえる。スウェーデンにおけるキャッシュレス決済は、クレジットカード、デビットカード、モバイル(Swish)といずれも銀行預金に連動、すなわち預金保険で保護されている商業銀行マネーに紐づけられ、キャッシュアウト可能である。e-kronaを検討するスウェーデン中銀は、商業銀行マネーをリスクフリーではない、と指摘するが、預金保険制度が存在し、信用不安を感じれば預金引出によってリスクフリーの中銀マネーに変えることの可能な商業銀行マネーは、預金保険制度の対象外である支払手段、リスクフリーの現金へのキャッシュアウトが出来ない支払手段に比較すれば、相対的・制度的には低リスクとみられる。スウェーデンは、相対的にリスクの低いキャッシュレス支払手段である商業銀行マネーのプラットフォームが席捲し、現金を支払い手段として選択できる社会を維持する必要性が唱えられている状況ともいえよう。イ. 我が国における多様な新決済手段と「通貨」との差異我が国の場合、一口にキャッシュレス決済といっても、銀行法等の規制の下にある商業銀行マネー連動の手段ばかりではなく、前払式証票法、資金決済法等に規律されているものもあり、実態は多様である。電子図表5 種類別のカード保有枚数(一人当たり枚数、2016年)インドフランススウェーデンイギリスドイツカナダ米国中国韓国日本0.02.04.06.08.010.012.0シンガポール(枚/人)クレジットカードデビットカード電子マネー(注)デビットカードにはディレイドデビットカードを含む。(出所)BIS “Red Book statistics for CPMI countries”46 ファイナンス 2019 Jul.SPOT

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