ファイナンス 2019年7月号 Vol.55 No.4
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1はじめに ~日本・スウェーデン・ ドイツの支払手段選択の状況概観~スウェーデンについては、「決済のキャッシュレス化が進み、中央銀行が電子通貨発行を検討するほどのキャッシュレス先進国」等の紹介が見られる一方、ドイツについては「我が国同様、現金による支払が好まれる国」といった説明に接する機会が多い。同じEU加盟国でありながら支払手段の利用状況について、実際、どのような相違があり、それはどのような理由で* 本稿の執筆にあたり、スウェーデン中央銀行、ドイツ中央銀行、欧州中央銀行、スカンジナビスカ・エンシルダ銀行、Getswish社、ドイツ財務省幹部等、関係各位に貴重な御協力・御教示をいただいた。在スウェーデン大使館、在ドイツ大使館及びフランクフルト総領事館のご支援もいただいた。ここに記して感謝申し上げたい。但し、元より文責は全て筆者に帰するものである。*1) 現金を利用せずに支払いを行う一般的方法として、預金口座からの振替、自動引落があるが、これらは電子マネーとカード決済のみを分子とする「キャッシュレス・ビジョン」のキャッシュレス決済比率(2015年18.4%)には含まれていない。口座振替・振込等を加味したキャッシュレス決済の利用比率については、51.8%(公益財団法人NIRA総合研究開発機構「キャッシュレス決済実態調査」2018年8月実施)、54.4%(金融庁金融制度スタディ・グループ資料「キャッシュレス決済に関する指標」2018年11月開催)等の調査例がある。生じているのだろうか。調査結果を2回に分けてご紹介したい。まず、基本的なデータを見てみよう。「未来投資戦略2018」(平成30年6月15日閣議決定)が引用する経済産業省「キャッシュレス・ビジョン」と同様のキャッシュレス決済比率を、日本、スウェーデン、ドイツについて2015年データで比較すると、各々、日本18.4%*1、スウェーデン48.6%、ドイツ14.9%となっている(図表1)。スウェーデンのキャッシュレス化・ ドイツのキャッシュレス化*(上)スウェーデン編前大臣官房審議官兼財務総合政策研究所副所長 小部 春美(今号目次)1.はじめに ~日本・スウェーデン・ドイツの支払手段選択の状況概観~2.スウェーデン(1)キャッシュレス化の進展:“Market Driven Process”(2)現状の問題点(その1)~現金利用の困難化~(3)現状の問題点(その2)~中央銀行マネーへの国民のアクセス~(4)スウェーデンのキャッシュレス化・我が国のキャッシュレス化(次号目次)3.ドイツ(1)現状(2)背景事情(3)課題等4.補論:格差問題(1)スウェーデンにおける社会の変化(2)負担の問題(3)米国における現金拒否禁止立法化等の動き図表1 キャッシュレス決済比率とその内訳(2015年)0.010.020.030.040.050.060.070.080.090.0100.0クレジットカードデビットカード電子マネー韓国中国カナダイギリスシンガポールスウェーデン米国フランスインド日本ドイツ(%)89.160.055.454.954.448.645.039.138.418.414.9(注)デビットカードにはディレイドデビットカードを含む。中国はBetter Than Cash Alliance のレポートによる。中国は分類が異なるため合計比率のみ表示している。(出所)キャッシュレス決済比率は経済産業省「キャッシュレス・ビジョン」(2018年)、内訳及びシンガポールの値はBIS “Statistics on payment, clearing and settlement systems in the CPMI countries” 及び世界銀行 “World Bank national accounts data, and OECD National Accounts data les”より試算。42 ファイナンス 2019 Jul.SPOT

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