ファイナンス 2019年7月号 Vol.55 No.4
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評価する意見が多く聞かれた。特に、航空機旅客に関する事前情報の活用については、多くの税関から、事前情報入手のために積極的に制度導入に取り組んでいること、各航空会社から共通のフォーマットで事前情報を入手するために国内の制度整備を行っていることの紹介があった。また、セキュリティプロジェクトに参加した税関職員が自国において他の税関職員に対する二次研修を実施して知見の共有を図っていることなどが紹介された。UNODC(国連薬物犯罪事務所)からは、国境付近に事務所を設け、テロ関連物資・薬物等の違法取引に関する情報収集・共有等による国境の関係機関相互の協力関係構築を図るためのBLO(Border Liaison Oces)制度について、インターポールからは、各国税関のテロ対策支援にもなる国際手配制度及び情報共有の枠組み等についての説明があり、税関と国内関係機関との協力、国際機関との協力の有用性について意見交換が行われた。カンファレンスの最後に、参加者の間で、効果的なテロ対策のためには、国際レベル(international)、地域レベル(regional)、国内(national)レベルの各段階における取組が必要であること、また、各国税関同士の協力に加え、関連国際機関及び法執行機関を含めた国際的な協力の更なる強化が重要であることが確認された。特に、各国税関及び関係国際機関等との情報交換といった分野について、具体的な協力を強化していくことが強調された。4おわりにテロ対策等の観点から税関相互の情報交換等を円滑に実施するためには、各国税関との関係を強化し、担当者間のネットワークが構築されていることが重要である。今回のWCOアジア大洋州地域セキュリティカンファレンスのように、日本に各国税関局長級などを呼び、税関におけるテロ対策に特化した会議を開催するのは初めてであったが、アジア大洋州諸国だけでなく、米国、英国、カナダの税関当局や、国連、インターポールといった国際機関の参加も得て活発な議論が行われ、参加者の多くから、テロ対策における国際協力のビジョンが共有出来た、また、マルチ及びバイの協力関係が広がったなどとの声も聞かれるなど、一定の成果を上げたと考えている。G20大阪サミットは無事に開催されたが、引き続き、関税局・税関という立場で、今後の大規模な国際的行事の成功に貢献すべく、今回のセキュリティカンファレンスの成果を最大限に活かして、テロ対策における国際協力を一層推進していきたい。※1事前情報(API及びPNR)API(Advanced Passenger Information、事前旅客情報)は、航空機等の搭乗旅客の氏名・国籍・生年月日等の情報。PNR(Passenger Name Record、乗客予約記録)は、航空機旅客の予約に関する情報で、予約者の氏名・国籍等、予約日・旅行日程、携帯品個数・重量等の情報。※2即席爆発物あり合わせの材料を用いて製造されたインスタント爆弾で、規格化されて製造されたものではない爆発物の総称。例えば、化学肥料を爆薬とするもの、リモコンを起爆装置とするものなどがある。WCOアジア大洋州地域セキュリティカンファレンスが開催された「京都」は、WCOや世界各国の税関関係者にとって特別な意味を持つ地名である。WCOの中核的な条約であり、税関の制度・手続の国際標準を規定する「税関手続の簡易化及び調和に関する国際規約」は、1973年に国立京都国際会館で開催されたWCO総会で採択されたことから、「京都規約」と呼ばれることとなった。その後、「京都規約」は時代に合わせて改正されることとなり、1999年に「改正京都規約」が採択され、これを記念して、ブラッセルにあるWCO本部内で最も大きい会議場は「ルーム・キョウト」と名付けられた。「ルーム・キョウト」の入口付近には、京都市から贈られた鶴の絵(京都日本画家協会理事長(当時)の橋田二郎画伯の「玄くろ鶴づる」)が飾られている。「京都」という地名が、税関関連の最も重要な条約やWCO本部のメインの会議場の名称に用いられていることは、日本がこれまでWCOや国際的な税関コミュニティに大きく貢献してきたことの一つの証左と言える。[京都とWCOの縁] ファイナンス 2019 Jul.41WCO(世界税関機構)アジア大洋州地域セキュリティカンファレンス SPOT

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