ファイナンス 2019年7月号 Vol.55 No.4
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2テロ対策における国際協力(1)テロ対策における国際協力の必要性現在、テロリストは国境を越えて活動し、テロ関連物資も国境を越えて動いており、国境を越えるヒトとモノの移動を管理する機関である税関はテロ対策において重要な役割を担っている。グローバル化の進展により、国境を越えるヒト・モノの移動が一層活発になる中で、テロ対策に係る取締りを効果的・効率的に実施するためには、様々な情報に基づいた緻密なリスク分析が必要不可欠であり、ハイリスク旅客等に関する外国税関との情報交換が重要となる。また、テロ対策の効果を上げるためには、先進国だけでなく、途上国も含めた全ての国がテロ対策を強化し、テロリストやテロ関連物資の行き来を抑え込む必要がある。各国税関の取締能力の向上は、日本へのテロ関連物資等の流入を防ぐことにもつながるものであり、テロ対策の能力が十分ではない税関に対する国際的な支援が重要となる。(2)WCOのテロ対策の取組み税関の国際機関であるWCOは、各国税関がテロ対策のために実施すべき具体的な取組みを国際標準として示し、必要な能力構築支援を行うなど、税関におけるテロ対策の国際協調を主導する役割を果たしている。WCOにおいて、テロ対策の取組みが本格的に検討される契機となったのは、2001年9月11日に発生した米国での同時多発テロであった。各国は、世界経済の成長を阻害することなくサプライチェーンの安定を確保する方策が必要であることを認識し、2002年6月のカナダ・カナナスキスでのG8サミットにおいて、国境における貿易実務において中核的な役割を果たす税関の国際機関であるWCOがその方策を検討する役割を担うこととされた。これを受け、WCOにおいて検討が重ねられ、2005年6月の総会において、「国際貿易に安全確保及び円滑化のための基準の枠組み」(SAFE基準の枠組み)が全会一致で採択されるに至った。現行の「SAFE基準の枠組み」には、税関におけるテロ対策の国際標準として、事前電子情報の活用、整合性の取れたリスク管理の実施、X線等による非破壊検査機器の活用や、税関相互の協力推進、税関と民間の協力推進、AEO制度など様々な基準が定められており、2019年6月現在、169か国・地域が同枠組みの実施の意図表明を行っている。「SAFE基準の枠組み」の採択後、WCOは税関のテロ対策をより体系的なものとするため、2012年に「セキュリティプログラム」を策定した。同プログラムは、税関の取締りにおける、より具体的なオペレーションを念頭に置いたもので、各国税関が直面している、● 事前情報(API及びPNR)※1を活用した航空機旅客管理● 航空貨物における小型武器、軽兵器の取締り● 即席爆発物※2に使用される化学物質の不正取引防止● 大量破壊兵器● テロ資金源の5分野に焦点を絞り、包括的な技術協力を実施するものである。同プログラムの重要性は主要国首脳にも共有され、2016年のG7伊勢志摩サミットの「テロ及び暴力的過激主義対策に関するG7行動計画」、2017年のG20ハンブルクサミットの「テロ対策に関するハンブルクG20首脳声明」にも盛り込まれている。(3)セキュリティプロジェクト前述の「セキュリティプログラム」に基づき、各国税関に対する技術協力を実施するプロジェクトの一つが、日本政府がWCOに拠出した資金を活用して運営されている「セキュリティプロジェクト」である。アジア大洋州地域においては、「セキュリティプログラム」の5分野のうち、同地域において、よりニーズの高い、● 事前情報(API及びPNR)を活用した航空機旅客管理● 航空貨物における小型武器・軽兵器の取締り● 即席爆発物に使用される化学物質の不正取引防止の3分野について、2017年から、職員への研修や携帯型ラマン分光計等の検査機器の供与を通じた能力構築支援を行っている。それぞれの分野について、専門知識やノウハウの共有を行うため、2年余りの活動期間中に40回を超えるワークショップ等を開催し、500人を超える途上国税関職員が参加した。ワーク ファイナンス 2019 Jul.39WCO(世界税関機構)アジア大洋州地域セキュリティカンファレンス SPOT

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