ファイナンス 2019年7月号 Vol.55 No.4
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日本は、金融セクターの優先課題として、(1)市場の分断回避、(2)暗号資産を含む技術革新、(3)高齢化と金融包摂、を取り上げましたので、その点を中心に述べたいと思います。金融規制全体に関しては、世界金融危機から10年が経ち、国際規制改革プログラムが概ね完了しています。今回、規制の実施とその影響評価作業や、新しいリスクと脆弱性への対応に軸足を移すとの姿勢を打ち出し、共同声明文から、合意された規制改革を「最終化する」という文言が初めてなくなりました。市場の分断(国際規制の実施時期のずれや各国独自規制等に起因)については、金融システムの安定性や金融仲介機能の効率性への負の影響に対する懸念が高まっています。我が国は、G20でこの問題を初めて本格的に取り上げ、当方の要請に応じ、金融安定理事会(FSB)と証券監督者国際機構(IOSCO)が策定した報告書が歓迎されました。また、規制・監督上の協力を通じてこの問題に対処していくことが合意されました。今後は、デリバティブ市場や資本と流動性の囲い込みの問題、国際連携等の分野を中心に、取組みを本格化していきます。技術革新については、金融システムや経済全体に重要な便益をもたらし得るとの認識が共有されました。一方で、暗号資産については、注意深く進展を監視し、リスクに警戒を続け、FSBその他の基準設定主体に、必要な対応の助言を求めることが合意されました。また、マネロン・テロ資金供与対策の面を強化し、金融活動作業部会(FATF)勧告適用への各国のコミットを前提に、FATFにおける具体的な適用基準の採択がG20において歓迎されました。さらに、日本の要請に応じ、IOSCOが作成した当局者用の手引書(市中協議文書)が歓迎されました。この文書は、暗号資産に係る消費者・投資家保護等に関する初の国際的な成果であり、先日改正した資金決済法等の内容も盛り込まれています。その他、日本の要請に応じ、FSBが作成した、暗号資産当局者向けの台帳や、暗号資産に係る既存の取組みと規制ギャップに関する報告書が歓迎されました。この分野については、引き続き注視し、必要があれば多国間の対応を検討するという認識でG20各国は一致しています。金融機関が仲介しない直接の金融取引が可能となる分散型金融技術については、その便益を十分享受できるよう、金融セクターへの影響分析や、当局・金融業界・学界・技術者等の対話の必要性等を内容とするFSBの報告書が歓迎されました。また、広く金融技術革新に関するマネロン・テロ資金供与対策に係る機会とリスクについて、FATFに作業・報告を要請することが合意されました。高齢化と金融包摂は、途上国を含め、世界各国の共通課題です。こうした認識の下、日本が議長を務める「金融包摂のためのグローバルパートナーシップ(GPFI)」により、金融リテラシーの向上等、金融包摂上の優先課題を網羅した「G20福岡ポリシー・プライオリティ」が取りまとめられ、承認されました。この他、6月7日に、G20高齢化と金融包摂シンポジウムを開催し、麻生大臣・グリアOECD事務総長等による基調講演の後、国内外の有識者を招き、意見交換が行われました。上記報告書や当セミナーを契機として、国際的な取組みや連携が加速することを期待しています。また、6月8日に、G20技術革新セミナーを開催し、麻生大臣・IMFラガルド専務理事による基調講演の後、金融機関・IT企業の代表に、技術革新が金融セクターにもたらす機会とリスクについて、議論をして頂きました。当局・金融業界・学者・技術者等の専門家間で、分散型金融システムのガバナンスについても議論が行われました。金融庁としては、こうした形での議論は有益だと考えており、今後も取組みを進めていきます。今回のG20は、金融庁にとり、我が国だけではなく、世界の金融の望ましい在り方を考える大変良い機会となりました。財務省・日本銀行の皆様、福岡でお世話になった皆様に改めて感謝申し上げます。前金融庁総合政策局参事官 有泉 秀G20福岡と金融分野22 ファイナンス 2019 Jul.SPOT

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