ファイナンス 2019年7月号 Vol.55 No.4
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日本議長下のG20財務大臣・中央銀行総裁会議における第2の柱は、「成長力強化のための具体的な取組」です。第1の柱における世界経済のリスクと課題の分析に基づいて、世界経済の潜在的な成長力を引き上げるための様々な課題をカバーしました。具体的には、(1)質の高いインフラ投資、(2)自然災害に対する財務上の強靭性の強化、(3)途上国におけるユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)ファイナンスの強化、及び(4)低所得国における債務の透明性の向上及び持続可能性の確保、について重点的に議論したほか、グローバル金融ガバナンスに関するG20賢人グループ(EPG)の提言を受けたフォローアップも議論しました。〈質の高いインフラ投資〉道路や港湾などのインフラの整備は、経済の生産性を向上させるために重要ですが、近年このインフラの不足が、成長の供給側の制約となっているとの指摘があります。こうした観点に立ち、近年のG20におけるインフラ投資の議論は、新興国・途上国における膨大なインフラ需要、持続的な開発目標(SDGs)達成に向けた資金ギャップを背景に、如何に民間資金を動員するかに主に焦点が当てられてきました。その一方で、持続可能な経済発展を支えるためには、インフラ投資の「質」を確保していくことが不可欠です。「質の高いインフラ投資」とは、長持ちし、災害に強いなど、そのインフラのライフサイクルを通じて見て経済的であるとともに、雇用創出や能力構築、環境や地域住民への配慮といった形でその地域の経済や社会に利益をもたらすものです。そして「質の高いインフラ投資」により経済基盤が強化されることで、インフラを含めた民間投資がさらに刺激されるといった波及的効果、自律的な好循環をもたらすことが期待されます。このように、インフラの「質」の向上と「量」の拡大とは補完的関係にある、というのが、本年日本がG20議長国として、成長力強化のための具体的取組の筆頭にこの「質の高いインフラ投資」の推進を掲げ、強調した点です。具体的には、2016年9月のG20杭州首脳宣言において合意された質の高いインフラ投資の諸要素を議論の出発点とし、「質の高いインフラ投資の推進のためのG7伊勢志摩原則」をも踏まえつつ、G20での議論では従来必ずしもハイライトされてこなかった要素に焦点を当てて議論することとしました。すなわち、利用の開放性や調達における透明性、国レベルでの債務持続可能性などを含むインフラ・ガバナンスの強化を新たな要素として盛り込むとともに、インフラ投資がもたらす経済、環境、社会及び開発面における正のインパクトを最大化し、経済活動の好循環を創出することを目標とする、インフラ投資に関するG20原則を策定することを目指し、昨年9月に東京で開催した「質の高いインフラ投資に係るセミナー」の開催を皮切りに各国や関連国際機関と活発な意見交換を行いました。その結果、日本が主張してきた「開放性」「透明性」「経済性」「債務持続可能性」を原則の諸要素として盛り込む形で、「質の高いインフラ投資に関するG20原則」が、本年6月福岡で開催されたG20財務大臣・中央銀行総裁会議で承認され、そして同月大阪でのG20サミットにおいて首脳レベルでも承認されました。また、質の高いインフラ投資に関心を有する途上国や国際開発金融機関(MDBs)、バイの開発金融機関などの実務担当者が、「質の高いインフラ投資に関するG20原則」を実施に移す上で参照することができるレファレンスノート、そして、質の高いインフラ投資の組成や資金調達を行う上での助けとなる支援ツールや政策枠組み等をワンストップで検索できるオンラ国際局開発政策課長 三好 敏之成長力強化に向けた 取組について16 ファイナンス 2019 Jul.SPOT

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