ファイナンス 2019年7月号 Vol.55 No.4
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最大の経常赤字国であるアメリカの赤字幅が半減する一方、中国の黒字がほぼ解消するなど、大きな変貌を遂げています。また、日本の経常収支に焦点を当てると、経常黒字の大半が所得収支(現地生産を行う海外子会社から日本本社への配当や、外債投資から得られる利息収入など)で占められるのに対し、貿易黒字はほぼゼロとなるに至っており、“輸出立国”から“投資立国”へと、経済構造の転換が進んでいることをお分かり頂けると思います。これは、貿易摩擦問題の解消に向け、輸出先であった消費地に生産拠点を設けることで、現地雇用の拡大や有形無形のノウハウの共有を図り、相手国経済に貢献しようとしてきた日本企業による長年の取組みが反映したものでもあります。このように、過去10年の間に、グローバル・インバランスの様相は大きく変わりましたが、引き続き、世界的な経常収支の不均衡は世界経済に対する潜在的リスク要因として注目されています。また、経常収支の不均衡が続いた結果、ストック(対外純資産・負債残高)のインバランスが拡大(2018年:全世界GDP比40%程度)している点にも、引き続き、関心が集まっています。こうした点を踏まえ、福岡G20では、グローバル・インバランスの背景にある構造要因にまで立ち返った上で、インバランスを巡る現状や要因に対する認識、今後の政策対応の方向性について、財務大臣・中央銀行総裁レベルで議論が交わされました。以下では、福岡G20で確認された主な点について、日本の観点などを踏まえた補足的な解説を加えつつ紹介します。・対外収支を評価するに当たっては、貿易収支に加え、サービス収支、所得収支を含む、経常収支の全ての構成要素に着目する必要がある。⇒ 日本のように、経常収支に占める貿易収支の割合が大幅減し、経常黒字のほとんどが所得収支によって占められるようになった国にとって、重要なメッセージであると言えるでしょう。また、米国のように国際競争力の強いサービス産業を擁する国にとっても、貿易収支だけに囚われない議論の有用性を示しています。・対外収支には、景気循環要因、国内政策(例:財政・金融政策)及び経済のファンダメンタルズ(例:高齢化の進捗)、海外からの波及要因(例:原油価格の変動)が複合して反映している。⇒ 日本のように、急速な高齢化が進む国においては、老後に備えた貯蓄を行う必要があり、それが対外収支にも影響することを確認したものと言えるでしょう。さらに、対外収支がこれらの複合要因-換言すればそれを反映した貯蓄投資バランス-を反映して決まるという事実は、二国間の貿易措置のみでは対外収支問題は解決しないことも示唆しています。・対外不均衡の中には、経済のファンダメンタルズに沿ったもの(例:高齢化進行過程における貯蓄の拡大を受けた経常黒字)がある一方、過度でありリスクを孕むもの(例:法人貯蓄の過度な積み上がり、景気の動きなどに照らし適切でない内容の財政政策、財・サービス分野の貿易障壁等に由来するインバランス)もある。⇒ 高齢化の進行や法人貯蓄の積み上がりは、日本の文脈にも関係する部分が大きいものと言えるでしょう。・国際的な協力の精神に基づいて、過度の対外不均衡に対応し、リスクを軽減するには、各国の実情に即しつつ、注意深く策定されたマクロ経済・構造政策が必要である。⇒ グローバル・インバランスを議論するに当たっては、もっぱら二国間の貿易収支に着目したアプローチより、むしろ、各国経済のファンダメンタルズにまで立ち戻り、マルチの文脈の中で議論することの重要性を確認したものと言えるでしょう。・IMFによるグローバル・インバランスに関する更なる分析に期待する。⇒ 世界各地に生産拠点を設け、相互に部品や最終製品を融通し合う国際分業体制(グローバル・バ【主要国の経常収支の推移(各国GDP比)】1998年2008年2018年アメリカ▲2.4%▲4.6%▲2.4%イギリス▲2.2%▲5.8%▲6.5%中国3.0%9.1%0.4%ドイツ▲0.7%5.7%7.3%日本2.8%2.8%3.5%うち 所得収支(配当・利息など)1.0%2.5%3.4%うち 貿易収支(モノの輸出入)3.1%1.1%0.2%世界全体のインバランス(世界GDP比)2.6%5.5%3.4%(出所)G20福岡提出資料などG20福岡 世界経済(リスクと課題)14 ファイナンス 2019 Jul.SPOT

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