ファイナンス 2019年6月号 Vol.55 No.3
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特集偽造紙幣が利用されれば 国民が損失を被る財務省は新紙幣(2024年度上期)と新硬貨(2021年度上期)の発行を公表した。その目的は主に(1)偽造抵抗力の強化、(2)紙幣の識別性向上(ユニバーサルデザイン)の目的がある。偽造抵抗力とは、法定通貨として信頼性を確保するために、偽造されにくい紙幣や硬貨にすることだ。偽造防止と聞くと、「本当に必要なのか」と考える人も多い。事実、国内では紙幣や硬貨の偽造の話題を耳にすることはあまりないだろう。しかし、偽造と無縁であるとは言い切れない。現在の紙幣は、2004年にデザインが変更され発行が開始されたものだ。変更の理由は偽造紙幣が大量に出回ったことだ。その際にはATMや自動販売機のチェックもすり抜け、利用されてしまった。当時、偽造紙幣が急増した背景には、パソコン、スキャナ、プリンターなどが高性能化したことがあった。たとえば、警察白書(2005年版)によると、無職の男性(35歳)が2003年7月ころから2004年1月ころにかけて、自宅のパソコンやカラープリンタなどを利用し、1万円札を250枚偽造し、近畿地方の2府3県で、タクシーやコンビニエンスストアで利用したという。偽造紙幣の大きな問題は、国民が広く損失を受ける可能性があることだ。偽造紙幣と知らずに紙幣を受け取ってしまえば、その価値はゼロになってしまう。偽造紙幣が急増したことを受けて、財務省では急遽、2002年夏に新しい紙幣の発行準備を開始することを公表し、2004年11月に発行を開始した。※法令上は「日本銀行券・貨幣」と定められているが、本稿では一般的な名称として「紙幣・硬貨」と記載している。このときは短期間で新紙幣を発行したため、一部では準備不足が目立つ結果となってしまった。当時の新聞報道によると、JRや私鉄の自動券売機では、新紙幣発行初日の段階で全台数の約7割で新旧紙幣が使えるようになっていた。一方で飲料水やたばこなどの自動販売機では全台数の約5割にとどまったという。その意味で偽造が発見されてからでは、十分な準備期間を確保するのは難しいと言わざるを得ない。一方で紙幣や硬貨はさまざまな人が利用する。高齢の人もいれば、障碍を持った人もいる。あるいは日ごろ、日本の紙幣に不慣れな訪日外国人も急激に増加している。どんな人でも使いやすい紙幣や硬貨を実現するのがユニバーサルデザインだ。通貨のユニバーサルデザイン化は、すでに世界の大きな流れになっている。今回の改刷では、日本でもユニバーサルデザインを大きく取り入れる。2004年の新紙幣発行前後の偽造状況 (枚)05,00010,00015,00020,00025,00030,000一万円券五千円券二千円券千円券1999年以降偽造紙幣が急増。2004年に新紙幣を発行。新紙幣の発行後、偽造が急減。1997年1998年1999年2000年2001年2002年2003年2004年2005年2006年出典:警察白書(2007年版)偽造抵抗力を強化しユニバーサルデザインを推進新紙幣・新硬貨の発行の目的とは? ファイナンス 2019 Jun.32004年以来、約20年ぶりの刷新へ新しい紙幣・硬貨発行の意義と最新技術

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