ファイナンス 2019年6月号 Vol.55 No.3
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コラム 海外経済の潮流122大臣官房総合政策課 国際経済調査係 岡本 泰タイ経済の現状と課題について近年タイ経済が堅調である。GDP成長率は、2014年から4年連続で対前年比を上回っており、【図1】直近2018年には+4.1%と6年ぶりの高水準となった。そこで、本稿では、堅調な近年のタイ経済を概観するとともに、今後の課題について考察する。まず、内需を下支えする要因として、「タイランド4.0」*1があげられる。「タイランド4.0」とは、2016年中旬にプラユット政権が発表した「20年間長期国家戦略2017~2036年」の別称である。これまでの「タイランド3.0」は、重工業や工業製品の輸出に重きを置いていたが、「タイランド4.0」では、デジタル経済の発展と新世代産業(次世代ターゲット産業)の育成を二つの柱とし、イノベーション主導型の経済成長に路線を転換することを目的としている。【図2】政府は「タイランド4.0」の実現に向け、外国企業の投資を拡大させるべく、外国企業に対して過去最大の優遇措置を付与する投資戦略を発表した。具体的に*1) 「タイランド4.0」は、ドイツ政府の「インダストリー4.0」を倣ったものと言われている。*2) 政府は低所得者層の生活支援を目的に「福祉カード」を導入。1,167万人に支給された。年収に応じた生活支援金が政府から毎月振り込まれる。年収3万バーツ未満が300バーツ、同3万バーツ以上10万バーツ未満が200バーツ。は、バンコク東部のチョンブリ県、ラヨン県、チャチュンサオ県の3県を「東部経済回廊(EEC)」として特定投資優遇地域に指定。当該地域の投資に対しては最長8年間の法人税免除に加え、その後5年間の法人税50%免除が受けられる優遇措置を決定した。日系企業も、2018年9月に日立がチョンブリ県でビッグデータを解析するソリューションセンターを開設した。加えて、バンコクとEECを結ぶ高速鉄道建設を始め、ウタパオ空港の国際空港化、レムチャバン港・マプタプット港などのインフラ整備、ターゲット産業の育成、観光促進などに今後5年間で1兆5,000億バーツ(約4兆5,000億円)の予算を投じる計画を示した。また、個人消費の低迷が問題となる中、2017年10月に低所得者層の生活支援を目的に財政措置*2を行い、この効果によって個人消費が改善された。さらに、もともと輸出依存比率(約70%)の高いタイ経済にとって、世界的な景気回復を受け輸出が増大したことも、経済成長の一因となった。こうした外的要因や政府の各種政策などが奏功し、タイ経済は4年連続で対前年を上回る成長を達成。足下2018年における通年の経済成長率は、年間を通じて旺盛な民間消費の拡大が成長を牽引したほか、東部経済回廊(EEC)周辺を中心に、投資案件が増加したことにより、対前年比+4.1%と前年(同+4.0%)に続き2年連続で4%台の伸びとなった。【図1】タイの実質GDPの推移0.02.04.06.08.0201020112012201320142015201620172018前年比、(%)(年)(出所)タイ国家統計局【図2】タイランド4.0のイメージThailand3.0Thailand2.0Thailand1.0・農業・軽工業・低賃金労働・重工業・輸出促進・海外からの直接投資・ロボティクス・航空・バイオ飲料、バイオ科学・デジタル・メディカルハブ・次世代自動車・スマートエレクトロニクス・メディカル&ウェルネスツーリズム・農業・バイオテクノロジー・食品関連Thailand4.0※この他プラユット首相は、工業やサービス産業だけでなく、農業にもしっかりと目を向けるとアピール。農業支援を目的としたSmart Farmerプロジェクトや、食品イノベーション、中小企業への積極的な援助等の施策を実施し、今後3~5年以内でタイランド4.0を実現できるような取り組みを行うとしている。(2016年9月16日)(出所)JETRO44 ファイナンス 2019 Jun.連載海外経済の 潮流

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