ファイナンス 2019年6月号 Vol.55 No.3
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医療・介護の労働生産性の現状・一方で、医療・介護セクターにおいては、コスト構造が労働集約的であり、資本による労働の代替や、イノベーションを通じて直接的に労働生産性を引上げることが難しいことを背景として、労働生産性(就業時間当たり付加価値生産額)の水準は、その他の産業に比して低く、その伸び率もマイナス傾向が続いている。・医療・介護セクターが拡大すると、労働生産性の水準の低い就業者が増加することになるため、同セクターの労働生産性の水準が現在のままにとどまれば、今後、マクロ的な労働生産性を下押しすることが想定される。図表6 実質労働生産性の水準(時間当たり)(円)01,0002,0003,0004,0005,0006,00020060708091011121314151617産業計保健衛生・社会事業その他産業(年)図表7 実質労働生産性の伸び率(時間当たり)(前年比、%)▲4.0▲2.00.02.04.020060708091011121314151617産業計保健衛生・社会事業その他産業(年)(注)労働生産性=経済活動別GDP÷(経済活動別就業者数×経済活動別就業時間(一人当たり))マクロ的な労働生産性の先行き・図表5で算出した産業別就業者比率を前提として、2017年時点の産業別労働生産性、就業時間を不変として、就業者比率が変化することに伴う労働生産性の低下幅について機械的に試算した。・医療・介護セクターの労働生産性が現状のままにとどまれば、マクロ経済全体でみた労働生産性は、2021年から2040年にかけて、累積で▲2.1%pt程度下押しされることになる(図表8)。・こうした事態を避けるためには、医療・介護セクターにおいて、就業時間当たりの付加価値生産額を高めていく必要があり、資本装備率の上昇や、イノベーションの効果的な活用によって、労働生産性を向上させる取組みを進めていくことが必要となる(図表9)。図表8 人口構造の変化に伴う労働生産性の低下(試算)▲2.5▲2.0▲1.5▲1.0▲0.5(%pt)(年)0.0202025303540(注)当該試算では、産業別の労働生産性の上昇率や就業時間の変化等を考慮していないなど、機械的な試算であることに留意が必要。図表9 産業別の資本装備率(2017年)020406080100120全産業卸売業・小売業サービス業医療、福祉業全産業(除く金融保険業)=100(注)資本装備率=有形固定資産÷期中平均従業員数(出所)厚生労働省「国民医療費の概況」、「介護給付費等実態調査」(図表1)、内閣府「国民経済計算」(図表2,3,6,7)、国立社会保障・人口問題研究所「将来推計人口(平成29年推計)」(図表4)、財務省「法人企業統計」(図表9) (注)文中、意見に関る部分は全て筆者の私見である。 ファイナンス 2019 Jun.43コラム 経済トレンド 60連載経済 トレンド

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