ファイナンス 2019年6月号 Vol.55 No.3
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クが分散されるため、単独融資では難しい創業者に対しても融資が実行できるようになる。このように日本公庫と協調して信用リスクを分散したうえでの支援は、事業再生等*6においても通ずるものである。また、リスク分散効果だけでなく、リスク推定が難しい分野であっても、2者の融資審査の目が入ることで事業計画の精度が上がるといったメリットや、公庫に創業時のリスク負担をしてもらう代わりに、地域金融機関は口座開設を通じてその後のフォローアップやコンサルティングを積極的に実施するなどの役割に応じた連携支援も可能となる。これらは地域金融機関による融資のフローの増加のみならず、長期的な地域経済の発展や衰退の防止にも資するものであり、地域全体に好循環をもたらす取組となりうる。エ 協調融資商品の創設等による、より顧客のニーズに沿った提案の実施ウとも関連するが、協調融資の一つの形として、日本公庫との連携をパッケージ化した協調融資商品がある。これまでの協調融資の取組を踏まえて商品化したケースや、これから協調融資を進めるに当たって新たに作ったケースなど背景は様々であるが、共通するメリットとしては、地域金融機関内での協調融資の認知度が高まり顧客への案内がしやすくなることや、審査書類の一元化や同時面談による顧客負担の軽減などがある。協調融資商品の件数は年々増加し、日本公庫では、平成30年度末時点で、366件となっており、対象分野についても、創業の他に事業再生、事業承継、ソーシャルビジネス等にまで広がっていることから、顧客ニーズへの対応領域の拡大を意味しているものと考えられる。一方で、個々の融資案件ごとにオーダーメイドのように協調融資を行う方が、型にはまらず顧客ニーズに対応しやすいため、あえて商品化していないという地域金融機関もある。いずれの形であっても、地域金融機関にとって、融*6) 事業再生に際しては、日本公庫の資本性ローンを活用し、呼び水効果を発揮することにより、地域金融機関からの融資がなされた事例も多い*7) 同行の札幌市内の約20店舗において、創業融資に関する勉強会を実施。今後対象店舗を拡大する予定*8) 創業期のみならず、再生期の企業の支援や成長期・安定期における資金も対象とした、「青い森トリプルサポート」を平成30年8月に創設*9) 同金庫の営業戦略会議に併せて、日本公庫職員が講師となり開催した*10) 燕三条地区に本店を有する、協栄信組、三條信組、新潟大栄信組の3信用組合*11) 燕三条地区事業承継支援ネットワークを形成資可能案件の増加や顧客満足度の上昇といった効果が期待され、ここに日本公庫との協調融資のインセンティブが生まれる。次に、上記の4点のメリットを踏まえて、地域金融機関と日本公庫等の連携の具体的な事例について、いくつか紹介することとしたい。3事例紹介(1)北海道銀行(北海道)創業融資審査等のノウハウが豊富な日本公庫との協調により、職員の知見が向上*7し創業支援に関する機動力も高まった。日本公庫と協調融資を行うことによる信用リスクの軽減に加え、日本公庫の資本性ローンや同行の決済機能の利用など、双方が有する機能の相互補完が図られることにより、顧客のニーズにマッチした質の高いサービスの提供が可能。(2)青い森信用金庫(青森県)日本公庫と協調融資を行うことで信用リスクの分散を図り、同金庫単独では対応が難しい大口案件であっても対応が可能。また、日本公庫と協調融資商品*8を創設することで、様々な資金需要の対応が可能となることから、地域の中小企業に向けてのアピールが実現。そのほか、日本公庫による同金庫職員への勉強会の開催*9により、職員の融資スキルの向上に期待。(3)協栄信用組合(新潟県)同組合を含む3信用組合*10が、連携・協働して企業の事業承継を支援する「しんくみ事業承継支援協議会(ツグ・サポ)」を立上げ。営業地域内の商工会議所等複数の団体・機関と連携協力*11するとともに、日本公庫とも連携し、協調融資商品を創設。信用リスク分散の観点において、日本公庫と協調融資で取り組むことができる点が同組合にとって最大のメリットであるとともに、日本公庫の担当者が連携案 ファイナンス 2019 Jun.37政府系金融機関と地域金融機関との連携状況についてSPOT

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