ファイナンス 2019年6月号 Vol.55 No.3
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それでは、地域金融機関はどのようなメリットを感じて政府系金融機関と連携を行っているのであろうか。昨年に引き続き、日本公庫及び沖縄公庫と連携・協調している地域金融機関から、連携に係る取組内容やメリット等についてヒアリングを行った*4。地域金融機関の抱える課題やその地域におけるニーズによって事例は様々であったが、日本公庫等との連携について地域金融機関が感じるメリットは、概ね以下に分類される。ア 公庫の全国ネットワークを生かしたイベントの開催や情報提供等による支援イ 勉強会等を通じた、職員のノウハウや融資スキルの向上ウ 協調融資によってリスクの分散が図られること等による、単独支援が困難な先への支援の実施エ 協調融資商品の創設等による、より顧客のニーズに沿った提案の実施各メリットの概要については、以下の通り。ア 公庫の全国ネットワークを生かしたイベントの開催や情報提供等による支援地域金融機関は、ローカルな情報やマッチングに強い反面、全国的なネットワークや人脈・情報を獲得するのに困難を感じやすい。これは、融資分野を問わず直面する問題であり、例えば、創業支援において創業者向けセミナーの内容や講師をどのように企画するかという課題や、事業再生支援において経営コンサルタント等の金融機関以外の適切な外部アドバイザーをどのように見つけるかという課題などがある。この点、日本公庫は全国に有するネットワークを介して、地域金融機関の営業地域外の者同士のマッチングが可能であるほか、広範な事業領域によって培った人脈により、創業希望者や各種経営コンサルタントの紹介や大手民間企業とのタイアップセミナーの開催なども行っている。また、政府系金融機関という特徴を生かし、国の政策や制度についての最新の情報を地域金融機関に提供することも可能である。こうした日本公庫の特徴をうまく活用することで、地域金融機関側の業務の補完に資することができると考えられる。*4) 昨年は創業に関する事例が中心だったが、本年は事業再生や事業承継等の事例も含めてヒアリングし、事例集に掲載。また、沖縄公庫の事例も掲載*5) 国民生活金融公庫は、現在の日本公庫国民生活事業の前身で、2008年10月1日まで存在した、国民生活金融公庫法に基づく特殊法人イ 勉強会等を通じた、職員のノウハウや融資スキルの向上近年、地域金融機関も創業融資に積極的に取り組もうとしているが、この分野は、事業計画書以外は参考にすべきものが乏しく、業績や事業の妥当性の判断が困難という特徴がある。この点、日本公庫は、国民生活金融公庫時代*5より、数多くの創業希望者の相談に乗り、創業融資を実行してきた経験から、創業融資に際し何に着目すべきかを心得ており、この日本公庫の審査目線や審査ノウハウに一目置いている地域金融機関は多い。その他にも、例えば、ソーシャルビジネスへの融資は、事業の継続性や安定性の見極めが難しいが、重点分野として取り組んできた日本公庫からの審査ノウハウ蓄積が期待されている。また、日本公庫では事業者支援に資する多くのツールも有している。例えば、創業時に必要な知識や手続きを解説した『創業の手引』のほか、事業承継に当たっても、『事業の未来を描くためのつなぐノート』や『みらいへのバトン~共につなぐ事業承継~』といった、事業承継のために必要とされる課題や計画づくりにおいての方向性等の検討を行うための手引書を作成しており、これらは円滑な事業承継の実施にあたって参考となるものとなっている。このような日本公庫のノウハウやツールは、地域金融機関にとっても有益なものであり、地域金融機関職員の融資スキル向上に活用されている。ウ 協調融資によってリスクの分散が図られること等による、単独支援が困難な先への支援の実施一般的に信用リスクが高いとされる創業者への融資については、地域金融機関においては融資限度額が低く抑えられている傾向にある。また十分な担保を提供できる創業者は多くはないため、結果として、創業者は意欲と能力があったとしても、資金調達面で躓くことを懸念して、創業を躊躇する可能性があるほか、地域金融機関においても融資がしたくとも融資が実施できない場合がある。この点、日本公庫と協調融資をすることで信用リス36 ファイナンス 2019 Jun.SPOT

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