ファイナンス 2019年6月号 Vol.55 No.3
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本稿では、株式会社日本政策金融公庫(以下、日本公庫)等の政府系金融機関と地域金融機関による連携について、今年4月に公表した連携事例集を参照しながら、官民連携が中小企業向け金融分野にもたらしている効果を考察することとしたい。(注)本稿の意見にわたる記述は、筆者の個人的な見解である。また、本稿は原則として令和元年5月31日時点で記述したものである。1政策金融の目的及び民間金融機関との連携・協調の推進政策金融は、創業支援、事業再生、海外展開支援、新技術の導入、災害対応、リスクマネーの供給など、公益性が高く、民間金融機関のみでは適切な対応が困難な分野において、融資、投資、保証などの金融的手法によって、特定の政策目的を達成する政策実現手段である*1。この政策金融の担い手として、政府出資を受けて特別の法律によってそれぞれの政策目的を実現するために設立された金融機関が、政府系金融機関である*2。日本の政策金融は戦後復興期から高度成長期にかけて大きな役割を果たしてきたが、平成20年の政策金融改革等を経て(図表1)、現在、政府系金融機関として、日本公庫、沖縄振興開発金融公庫(以下、沖縄公庫)、株式会社国際協力銀行、株式会社商工組合中央金庫(以下、商工中金)、株式会社日本政策投資銀行の5機関が置かれている(図表2)。政策金融の推進にあたって、地域における金融機能の高度化や成長資金の供給促進を図り、企業・経済の*1) 政策金融に明確な定義はなく、論者によって様々な定義・範囲の議論がなされている。例えば、ファイナンス2010年7月号の記事では、「(1)政策目的を持って、(2)政府が関与(出資)する金融機関が実施する、(3)融資・保証等の金融サービス」を政策金融と捉えている*2) 政府系金融機関に類似する金融業務を行う独立行政法人としては、中小企業基盤整備機構、情報通信研究機構、農林漁業信用基金、奄美群島振興開発基金、住宅金融支援機構及び国際協力機構がある*3) 全銀協、地銀協、第二地銀協とすでに21回実施(平成31年3月末時点)持続的成長等に貢献する観点から、政策金融と民間金融との連携・協調を促進することが重要である。このため、政府系金融機関と民間金融機関の間で業務提携・協力に関する覚書を締結(図表3)し、協調融資を進めてきたところであるが、近年、より一層積極的に取り組んでおり、協調融資の実績(図表4)が伸びてきている。また、日本公庫、商工中金及び沖縄公庫では、現場レベル(支店)でのコミュニケーションの充実を図る目的で、平成27年3月以降、政府系金融機関(日本公庫、商工中金、沖縄公庫)と地銀(地銀協会員行)との間に、「連絡窓口」が設置されている(図表5)。日本政策投資銀行では、平成27年5月の日本政策投資銀行法の改正を受け、民間金融機関との協調を徹底するため、外部の有識者による助言機関として設置していた「アドバイザリー・ボード」を取締役会の諮問機関へと変更し、適正な競争関係の確保を諮問事項として追加した。あわせて、民間金融機関との定期的な意見交換会を実施するとともに*3、民間金融機関との意見交換の結果をアドバイザリー・ボード、モニタリング・ボードに報告し、適正な競争関係確保の状況等について評価をさせた上で、結果を業務運営に反映させるという仕組みを構築している(図表6)。このように、政府系金融機関は、民間金融機関と連携・協調しつつ、地域を支える事業者に対して資金供給やそれと一体となった様々な支援を行っていくことで、地域経済の好循環の実現に貢献することを目指している。政府系金融機関と地域金融機関との連携状況について大臣官房政策金融課 小林 由佳/今 拓久真/屋敷 貴那 ファイナンス 2019 Jun.33SPOT

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