ファイナンス 2019年6月号 Vol.55 No.3
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■紙幣は149億枚、硬貨は875億枚が流通世界的にキャッシュレス化が進む中で日本政府も推進している。しかし、一方で紙幣は149億枚*が流通している。硬貨は約875億枚が流通しており、そのうち500円硬貨は約47億枚を占める。これだけ利用されている以上、偽造のリスクは伴うため、政府は信頼性の高いものを提供しなければならない。日本よりキャッシュレス化が進んでいる海外の状況を見ても、スウェーデンを除いて紙幣の流通量は増加傾向にある。日本において紙幣の流通量が増加傾向にある要因はさまざま考えられるが、その一つとして低金利が挙げられる。高金利の時代であれば金融機関に預けることによって一定の利息が確保できた。しかし、低金利のいまは、ほとんどリターンが得られないため、ATMで引き出す際に手数料がかかると、逆にマイナスになってしまう。であれば、現金(紙幣)でもっていたほうが有利であるとの考え方だ。また、1997年の山一証券破たんなど金融不安が大きくなったときや2002年4月1日にペイオフが解禁され、預金保険で守られる金額は「1金融機関当たり1,000万円の元本とその利息」となったときなどに紙幣の需要が伸びている。キャッシュレス化は主に代金の支払いなど取引面で進んでいるが、紙幣の需要には取引以外のものもあるため、全体として増加する要因になっていると考えられる。一方で硬貨においては1円、5円、10円の流通枚数は減少傾向にある。これはキャッシュレス化の影響だと考えられる。政府としては、紙幣や硬貨の流通を増やす考えはないが、需要があればそれに見合う供給を行い、その際には偽造されにくいものを提供する必要があると考えている。スウェーデンでは紙幣の流通量は減少傾向にあるが、同時に現金は残すべきだとの考えも持っている。2018年6月、議会の超党派委員会であり「リクスバンク委員会」は700億スウェーデン・クローナ(SEK)以上の預金を保有する金融機関に対し、現金サービス(預金の引出しと預入)の提供を義務付けることを提案している。その理由は、高齢者や移民、障碍者などの一部の人々にとって現金は引き続き重要な決済手段であること。また、現金が利用可能であることで、社会の脆弱性(有事の対応等)が低減されること、などを理由としている。これはスウェーデンに限ったことではない。日本でも2018年9月6日に発生した北海道胆振東部地震では、キャッシュレス決済がストップし混乱を招いた。災害時や緊急時に混乱を招かない体制を整備するのが政府の役割であることを考えると、引き続き紙幣や硬貨の安全な提供は考えていく必要がある。* 千円券、二千円券、五千円券、一万円券の合計の枚数。日本銀行が年末に公表する一円券から一万円券の合計枚数とは異なる今後も現金を使う必要があると思う場面(複数回答)58.129.961.379.173.848.744.471.41.50.50.8020406080100日常の支払貯蓄緊急時の備え冠婚葬祭さい銭募金割り勘お小遣いやお年玉現金は必要ないその他無回答「その他」の具体例(全4件)●医療費●謝礼(%)自宅で現金を保有する理由(複数回答)42.515.310.433.71.816.97.201020304050現金引き出しが面倒・手数料がかかる目に見える場所に資産があると安心金融機関に預けてもほとんど利子がつかない非常時にクレジットカードや電子マネーは使えなくなる可能性がある金融機関での預金は個人情報漏えいの可能性があるその他無回答(%)「その他」の具体例●銀行へ行く時間がない時のため●給料が現金支給だから●学校の集金等で使うため世界的に紙幣の流通は増加。偽造防止への対応は重要にキャッシュレス化と通貨供給の関係は?出典:財務省「通貨に対する実態調査」(平成30年度)12 ファイナンス 2019 Jun.

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