ファイナンス 2019年5月号 Vol.55 No.2
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き法人部門が逆に貯蓄超過になっている日本のようなケースでは、グローバル・インバランスの視点からも是正すべきという議論になりえます。第3に、経常収支の裏側にある金融収支に着目すると、日本では、経常収支が黒字であるとしても、その相当部分は国外に対して、例えば、アメリカに投資をしたり、ヨーロッパに投資をしたりして雇用を生んでいるという実態があります。こうしたことからも、全体のピクチャーのごく一部である二国間の貿易収支だけを見るのではなく、グローバル・インバランス全体の各論点をより深く議論していく必要があると考えています。■高齢化への対応次に、2つ目のアジェンダは、高齢化です。高齢化も、不思議なことにG20では今まで包括的に議論されたことはありませんでした。高齢化といっても、そのスピードや段階には国によって違いがあり、政策的な関心の深さも必ずしも同様ではありませんが、遅かれ早かれ、全ての国にとって、高齢化というのは避けては通れない課題になると考えられます。日本は高齢化の先進国ですが、だからこそ、是非、日本の議長下でG20におけるこの議論をスタートしたいと考えております。具体的には、高齢化は、財政政策の観点から年金や医療・介護を含めて様々な影響があることに加えて、金融政策の観点からも自然利子率に対する影響、また、労働供給や労働市場に対する影響も考えられます。さらには、異なった世代間の平等に関する様々な影響も議論しなくてはいけません。こうした色々な側面から、高齢化というものを我々はどう捉え対応していくべきか、落ち着いて議論してみたいと思います。■デジタル化への対応3つ目のアジェンダとしては、デジタル化に関連して、財務大臣プロセスでは、国際租税、特にデジタル課税について議論をしていきたいと考えております。国際租税においては、G20としては、2012年に、BEPS(税源浸食と利益移転:Base Erosion and Prot Shifting)というプロジェクトをOECDとともに立ち上げ、2015年トルコ・アンタルヤサミットの際に、2,000ページにも及ぶ報告書を公表しております。我々の問題意識は、多国籍企業が法律の抜け穴やタックス・ヘイヴンを利用して課税逃れを行っていることについてどう対処すべきかということでした。この報告書により、かなりの論点に関して処方箋を示すことができましたが、いくつか残った重要な論点の1つがデジタル課税の問題です。伝統的な国際課税ルールでは、国内に支店や工場など恒久的施設(PE:Permanent Establishment)がない外国企業には、基本的には法人税を課税しようがありません。こうした中で、電子商取引(e-コマース)に対して、伝統的なPE原則に代わって何を根拠に取引に対して法人税を適正に課すことが可能かという議論です。デジタル課税の場合には、結局どこの国でも適正な課税がなされていないという二重非課税の議論がより先鋭化していくわけです。これは、最近のいわゆるデータの取扱いと関連して、非常に世間の注目を集めている論点でもあります。こうしたデジタル化に伴う課税原則の見直し、租税回避・脱税への対応について、福岡の財務大臣会合、大阪サミットに向けて、できる限り話を詰めていきたいと考えております。―6月に日本で開催されるG20会議に向けて、意気込みやメッセージをお聞かせいただけますでしょうか。こうしてグローバル化、デジタル化、高齢化が進む中で、経済成長の果実自体の大きさは拡大していますが、問題はその分配に必ずしも平等に与れない人が出てきてしまっていることです。その結果、麻生財務大臣も仰っておられましたが、これまでの国際経済秩序や国際協調に若干の影を落としているのではないか。平時である今こそ、そういう政策協調、国際協調のモメンタムを維持するために、グローバル・インバランスにしても、高齢化にしても、国際租税にしても、抽象的な議論ではなく、具体的な政策提言に資するような建設的な議論をしていきたいと考えております。また、G20は、参加国数も多く、議論が冗長に流れて、あまり現実に即していない議論が行われているのではないかという意見もあることから、出来る限りストリームライン化、すなわち、アジェンダ、組織を合理化し、無駄なものを排し、その代わり、現実の政策協調に必要な議論に焦点を当てて、シャープな結論が出るような議論をリードしたいと考えております。総じてこうしたことが、日本の議長下で今可能である環境にあるというのは、やはり、日本がG20の中で最も政治的に安定した国の一つになったことではないでしょうか。G7の財務大臣では、麻生大臣が一番在任期間が長くなりました。それもあって、日本の存在感は極めて大きく、その発言も非常に注目を浴びるようになっています。日本が色々な諸課題を建設的にまとめていくには、非常に良い立ち位置にあると思うのです。最後に、福岡という地は、麻生財務大臣のご地元であるとともに、黒田日本銀行総裁のご出身地でもあります。こうしたゆかりのある土地で、各国及び国際機関のヘッドをお迎えして、福岡と一緒にビジビリティの高い会議として盛り立てていきたいと思っております。 ファイナンス 2019 May5

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