ファイナンス 2019年5月号 Vol.55 No.2
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―日本が初めてG20議長国となり、6月には、福岡での財務大臣・中央銀行総裁会議(財務大臣トラック)、大阪での首脳会議(サミット)を迎えていくこととなりますが、まずは、日本が担う責務・使命、ビジョンについてお聞かせください。G20サミットは、リーマン・ショック直後2008年11月のワシントン会合から始まり、翌年にはロンドンで第2回会合が開催されました。当時、日本の首脳として麻生総理が出席され、私も総理秘書官として同行したことを鮮明に覚えています。リーマン・ショック後の世界経済の先行きに対する懸念が高まる中、これをどうやって乗り切るか、首脳間で真剣な議論が行われました。その結果、各国における財政出動と金融セクターにおける規制導入が合意され、そうしたG20の政策協調を背景に、2009年後半から世界経済は回復していきました。その後、G20サミットは、ピッツバーグ、トロントと続くのですが、特に2010年のトロントサミットでは、世界経済が回復し始めたことを背景に、今度はマクロ政策として特に先進国は、財政拡張から財政再建路線に舵を切ることとなりました。こうした危機時における政策協調は、危機感が強いだけに比較的容易に議論ができるという側面があります。結果として、ここまではG20のマクロ経済政策の協調がうまく機能していたように思います。しかしながら、その後、世界経済がいわゆる平時モードに入ってきて、一体、G20として何をやるべきなのか、何を政策協調のアジェンダにすべきなのか、議論の難易度が格段に高まってきたという実感があります。直近の世界経済は、経済成長が多少鈍化し、様々な下方リスクが指摘されておりますが、そうしたリスクも、少なくとも現時点では各々コントロールされており、基本的には景気は緩やかな回復基調にあると思います。こうした平時の際に、日本が議長国として、G20でいかなるアジェンダを設定しようかというのは、ある意味非常に難しい話です。議論は拡散してもいけないし、あまり抽象的な議論に終始してもいけません。そもそもG20の政策協調の一番の根底にあるのは、持続可能でバランスのとれた経済成長を実現するために、我々は基本的に何をすべきかという点です。そのために、中長期的な観点から、今いかなる論点を我々が議論すべきかです。―持続可能でバランスのとれた経済成長の基盤づくりに向けて、日本として、議論をどのように主導していくお考えでしょうか。世界経済にとって中長期的な観点からの大きなチャレンジは何かを考えると、グローバル化、高齢化、それからデジタル化といった3つの大きなテーマに行き着くと思います。これらの抗し難いトレンドに対応して、持続可能でバランスのとれた経済成長を実現するために、日本議長下のG20財務大臣トラックでは、「世界経済のリスクと課題」、「成長力強化のための具体的取組」、「技術革新・グローバル化がもたらす経済社会の構造変化への対応」という3つのテーマのもとに、10個のプライオリティを設定しています。このうち、特に議長国として強調したい3つのアジェンダを紹介したいと思います。■グローバル・インバランスへの対応まず1つ目のアジェンダは、グローバル・インバランス(経常収支不均衡)について、その要因や対応の方向性を議論していきたいと考えております。最近の貿易摩擦の激化は、世界経済の大きな下方リスクの一つと指摘されているのですが、対外的なインバランスを単に二国間だけの貿易問題と捉えるというのは、正しくありません。ある国のインバランスというのは、二国間ではなくて、多国間の枠組みで捉える必要があります。かつ、それぞれの国の経済構造に踏み込み、貯蓄・投資バランスの構造要因を理解していかないと、本質的な解決につながりません。グローバル・インバランスについては、過去にはG20の場でよく議論されておりましたが、ここ数年間は議論がありませんでした。今回、議長国の立場から、是非この議論を再開してみたいと考えております。具体的には、第1に、経常収支の問題を、財の貿易収支だけに議論をフォーカスするのではなく、例えば、サービス貿易も自由化すれば、グローバル・インバランスの改善に寄与することが十分考えられます。また、日本を例に挙げれば、経常収支黒字は、貿易収支でもサービス収支でもなく、そのほとんどが過去の投資からのリターンである所得収支ということもあります。第2に、グローバル・インバランスを是正するためには、各国の貯蓄・投資バランスに踏み込んだ議論が必要です。高齢化が進めば、家計部門の貯蓄率は一時的に上昇する傾向が見られます。他方、本来投資主体であるべINTERVIEW議長国として挑むG20に向けてVice Minister of Finance for International AffairsMASATSUGU ASAKAWA浅川 雅嗣 財務官4 ファイナンス 2019 May

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