ファイナンス 2019年5月号 Vol.55 No.2
67/96

者が存在していれば、一物一価の法則が成立するはずであり、韓国のビットコインにプレミアムが付されることは不自然である。実は、金融危機に伴う金融規制強化等を背景に、金融市場において市場が分断化されることはしばしば指摘されており、このことが裁定行動を限定化し、一物一価の法則を壊す可能性を生む。Choi et al.(2018)はこのような研究を踏まえた上で、韓国の資本規制が市場の分断をもたらし、投資家の裁定行動が制限されることがキムチ・プレミアムを生んでいるという議論を行っている。中国人民銀行(中央銀行)が2013年12月に行った警告及び規制についてのリサーチもなされている。中国人民銀行は同月、ビットコインには、一定のリスクがあるとして金融機関に対し、取引を行うべきではないと警告したほか、ビットコインから生じるマネーロンダリングリスクを防止するために行動する方針を示した*35。Ju et al.(2016)は、中国人民銀行が警告を発する前に、人民元から米ドルへビットコインを通じてキャピタル・フライトがあったものの、この規制以降はキャピタル・フライトがないとの実証結果を示し、中国政府による規制の効果について論じている。なお、中国では2017年に入って民間の暗号資産交換業者における暗号資産取引について規制を強化した*36ほか、後述するとおり、ICOの禁止などの措置を採っている。北見・首藤(2018, p.13)によると、「海外での取引も含め、中国国民に対して、民間の取引所における仮想通貨取引を全面的に禁止する方向に向かっているものと推察することができる。」とのことである。4.ICOに係る研究ICOと呼ばれる暗号資産を通じた資金調達手段も規制という点で話題になることが多い。国や企業などが資金調達を行う場合、伝統的には銀行等による借入に加え、株式や債券などの発行を通じてなされることがほとんどであるが、ICOによる資金調達の場合、前述*35) ロイター(2013/12/5)「中国人民銀行、金融機関に「ビットコイン」の取引について警告」などを参照*36) 北見・首藤(2018)*37) フィスコ・ICOニュース(2018/6/14)「岡山県西粟倉村、日本初、地方自治体によるICOの実施を決定」*38) 日本経済新聞(2018/7/25)「自治体初のICO 岡山・西粟倉村、地方創生の財源に」*39) 西日本新聞(2018/12/3)「Chaintope ユネスコ世界文化遺産を有する長崎県平戸市での地方創生ICOの実施検討を開始」*40) 「仮想通貨交換業等に関する研究会報告書」(2018/12/21、金融庁)https://www.fsa.go.jp/news/30/singi/20181221-1.pdf*41) 「仮想通貨交換業等に関する研究会」資料(第8回、2018/11/1、金融庁)https://www.fsa.go.jp/news/30/singi/20181101-3.pdf*42) 「仮想通貨交換業等に関する研究会報告書」(2018/12/21、金融庁)p.19からの引用。*43) 原文“while regulating ICOs is desirable, banning them outright is not” Chod & Lyandres, 2018, abstractのとおり、インターネットを媒介としたクラウドファンディングに近いイメージである。ICOは、一般的に公衆から法定通貨や暗号資産の調達を行うために企業等が電子的なトークンを発行する行為を総称するとされるが、明確な定義は存在しない。このようなトークンを通じた資金調達は2013年から始まったとされるが、発行体・資金調達額ともに広がりを見せている。発行体については、民間企業が主体であるが、地方自治体やソブリンの中にもICOを検討している団体がある。たとえば、米国カリフォルニア州バークレー市や韓国ソウル特別市が検討している*37ほか、我が国でも岡山県西粟倉村*38や長崎県平戸市*39で自治体と連携した民間団体がICOを実施することを検討中と報道されている。ソブリンについてはマーシャル諸島共和国が独自の暗号資産を発行する法案が可決されている(Chavez-Dreyfuss, 2018)。また、発行額については、2017年の全世界におけるICOによる資金調達額は約55億ドルと言われているが、2018年は1月から10月末までで約167億ドル資金調達された*40と言われており、昨年になり注目度が増したところである。ICOについては、冒頭で記載したとおり、その8割近くが詐欺によるものとの調査結果もでており、ICOにかかる規制について国内外で活発な議論が行われている。ICOにかかる海外の規制の状況は、中国では禁止、韓国でも禁止との意向が表明されている一方、米国では規制当局が一部のトークンについて有価証券に該当するとの見解を公表している*41。ICOについては、「詐欺的な事案や事業計画が杜撰な事案も多く、利用者保護が不十分である」*42などの指摘がある一方、「ICOの規制は望ましいが、完全に禁止することは望ましくない」*43という意見もあり、多くの国でICOに対する規制の在り方について盛んに議論が行われているところである。我が国でも、情報通信技術の進展に伴う金融取引の多様化に対応するための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律案(2019/3/15提 ファイナンス 2019 May.63シリーズ 日本経済を考える 89連載日本経済を 考える

元のページ  ../index.html#67

このブックを見る