ファイナンス 2019年5月号 Vol.55 No.2
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コラム:暗号資産前史暗号資産自体の歴史は10年程度であるが、暗号資産の着想自体は前世紀に遡るものである。暗号資産の前史を振り返ると、暗号技術、そしてサイファーパンク運動の影響が指摘される(Narayanan et al., 2016)。現代暗号は公開鍵暗号*14が開発された1970年代から始まったと言われている*15が、このような暗号技術によりプライバシーの確保などを図ろうとするサイファーパンクと呼ばれる社会運動が1990年代前後に湧き上がった*16。中央管理機関を用いずに電子的に価値をやり取りする仕組みも、そのようなサイファーパンク運動で希求されたもののうちの1つであり、そのような仕組みとして1989年に創業されたデジキャッシュ社の開発したeキャッシュなどのユニークな取組みも提唱された*17が、同社は前世紀中に破産したと言われている。ビットコインやイーサリアムを始めとする多くの*18暗号資産は、台帳等の管理に係る中央管理機関が存在しない中、取引記録の真正性を確保するような仕組みを導入*19しており、サイファーパンク運動が目指していたような仕組みが広範に使用されている実例となっているとも言えよう。*14) 公開鍵暗号より前の暗号は、メッセージを暗号化・復号化する際に使用する共通鍵を、受信者と送信者の間で事前に共有しておく必要があり、この事前共有の際に共通鍵を盗聴されると盗聴者に暗号文が復号化されてしまう、「鍵配送問題」と呼ばれる課題があった。これに対し、公開鍵暗号は、暗号化・復号化のために、公開鍵と秘密鍵という2つの異なる鍵(数値)を使用する仕組みである。この仕組みでは、送信者が受信者の公開鍵を用いてメッセージを暗号化すると、その暗号文を復号化するには受信者の秘密鍵が必要となる。受信者は秘密鍵を共有することなく暗号文を復号することができ、受信者の秘密鍵が外部に漏れない限り、暗号文を復号できるのは受信者のみである。こうした公開鍵暗号は、素因数分解の困難性や楕円関数の離散対数問題の困難性などを用いることを通じて実現されており、この仕組みによって、従来課題であった鍵配送問題が解決され、インターネット上でも広範に暗号技術が用いられるようになった。 (但し、現在広く用いられている公開鍵暗号方式が依拠している上記の困難性は、もし量子コンピュータが開発されたら解消してしまうことが知られているため、量子コンピュータにも耐えうるような新たな公開鍵暗号方式(格子暗号など)も研究されており、そのような仕組みを実際に暗号資産に導入した例も存在する。) なお、公開鍵暗号方式は、インターネットにおいては「署名」の方法としても用いられている(「デジタル署名」)。例えばビットコインにおいては、ビットコインの支払いの際に、一種の本人確認として支払者が自分の秘密鍵を用いて「署名」を生成する。その署名を支払者の公開鍵を用いて復号することで、その送金の支払者が想定している「本物」であることを確認できるという仕組みである。*15) 渡辺(2006)*16) 伊藤(2018)*17) 伊藤(2018)*18) もっとも、リップルのように中央管理機関を有する暗号資産も存在するとの指摘もある(田村・山下、2016; 川野、2019)。*19) もっとも暗号資産によっては中央管理機関が存在している。*20) Constable, 2017、CMEホームページ等*21) 日本国債先物など債券に係る先物は現物決済がなされることが多い。*22) 限月については用語集 http://www.maff.go.jp/j/shokusan/syoutori/dealing/pdf/ken3-ref-6.pdfなどを参照。号資産市場の成熟のため先物の導入が求められた*20。ビットコイン先物の商品性は日経平均先物など他の先物と基本的に同じである。ビットコイン先物では、期日が到来したときには約定した先物価格と決済価格との差額を受け渡すことにより差金決済(現金決済*21)が行われる。契約時には取引時の現物の価格の一定割合の証拠金を差し入れる必要があり、先物の満期にあたる限げん月げつは毎月存在する*22。前述のとおり、ビットコ図 ビットコインの価格推移$0$2,000$4,000$6,000$8,000$10,000$12,000$14,000$16,000$18,000$20,0001-May-131-Jul-131-Sep-131-Nov-131-Jan-141-Mar-141-May-141-Jul-141-Sep-141-Nov-141-Jan-151-Mar-151-May-151-Jul-151-Sep-151-Nov-151-Jan-161-Mar-161-May-161-Jul-161-Sep-161-Nov-161-Jan-171-Mar-171-May-171-Jul-171-Sep-171-Nov-171-Jan-181-Mar-181-May-181-Jul-181-Sep-181-Nov-181-Jan-191-Mar-192017年の価格変動CBOE、CMEがビットコイン先物導入(出典)https://coinmarketcap.comの日次終値(米ドルベース)58 ファイナンス 2019 May.連載日本経済を 考える

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