ファイナンス 2019年5月号 Vol.55 No.2
60/96

過去の「シリーズ日本経済を考える」については、財務総合政策研究所ホームページに掲載しています。http://www.mof.go.jp/pri/research/special_report/index.html暗号資産(仮想通貨)研究への誘い ―先物、不正・規制、ICOを中心に財務省財務総合政策研究所客員研究員石田 良*1財務省財務総合政策研究所研究員服部 孝洋シリーズ日本経済を考える891.序説暗号資産*2がその運用を開始してから10年が経過した*3。運用開始当初は一部エンジニアなどにしか知られていなかった暗号資産も、今や時価総額にして約20兆円*4にまで至っており、価格変動が大きいだけでなく*5、国際通貨基金(International Monetary Fund, IMF)を始めとする国際機関や主要国の中央銀行までもが関心を示すほか、個人マネーの参入*6などの社会現象を引き起こしていることから、昨今様々な方面から注目を浴びている。このような暗号資産が一般の注目を浴びるようになった契機としては2013年のキプロス危機などが挙げられるが、その後、2017年に入ると、代表的な暗号資産であるビットコインを始めとする多くの暗号資産が年始から年末にかけて大きく値上がりし、「億り人*7」現象なども見られたことから、暗号資産の話題がマスコミなどを賑わせた*8。石田(2018)等が指摘*1) 本稿は専ら研究目的で書かれたものである。本稿の意見に係る部分は筆者らの個人的見解であり、筆者らの所属する組織の見解を表すものではない。ありうべき誤りは全て筆者らに帰する。また本稿は、本稿で紹介する論文の正確性について何ら保証するものではない。本稿につき、コメントをくださった多くの方々に感謝申し上げる。*2) いわゆる仮想通貨について、 ・最近では、国際的な議論の場において、“crypto-asset”(「暗号資産」)との表現が用いられつつあること、 ・ 『国際的な動向等を踏まえれば、法令上、「仮想通貨」の呼称を「暗号資産」に変更することが考えられる』(「仮想通貨交換業等に関する研究会報告書」(2018/12/21、金融庁)p.31)との指摘があること、 ・ 総理も「仮想通貨については、国際的な動向を踏まえ、今後、暗号資産と呼ぶのが適当と考えておりますので、暗号資産と呼ばさせていただきたいと思います。」と国会(参議院予算委員会、2019/2/7)で答弁していること、 ・ 情報通信技術の進展に伴う金融取引の多様化に対応するための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律案(2019/3/15提出)に於いては、国際的な動向等を踏まえ、法令上の呼称が「仮想通貨」から「暗号資産」に変更されることとなっていること、 などを踏まえ、本稿では固有名詞などを除き「暗号資産」との表現を用いることとした。*3) 初めての暗号資産であるビットコインが運用を開始したのは2009年1月3日であると言われている(例えばBarber et al., 2012)。*4) https://coinmarketcap.com/(2019/4/11時点)*5) 暗号資産の価格変動が大きいことは、例えば「仮想通貨交換業等に関する研究会」(第7回、2018/10/19、金融庁)で指摘されている。 https://www.fsa.go.jp/news/30/singi/20181019-2.html*6) 個人マネーの流入については例えば日経新聞(2017/5/30)が指摘している。 https://www.nikkei.com/article/DGKKASGD25H67_W7A520C1EA1000/*7) 正確な定義は存在しないが、「仮想通貨の高騰で1億円以上の資産を築いた人」などを指すとされる(日経新聞2018/5/25)。 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO30957770V20C18A5EA1000/*8) 代表的なインターネット上の検索エンジンであるGoogleで「仮想通貨」や「cryptocurrency」がどのくらいの頻度で検索されているのかをGoogle trendと呼ばれるサービスを用いて調べると、2017年に入ってからこれらのワードに係る検索頻度が急上昇していることが分かる。*9) 前掲https://coinmarketcap.com/(2019/4/11時点)しているとおり、暗号資産についての学術的な研究は情報工学系の取組みが先行していた。しかし、ここ1~2年で経済学及びファイナンスのトップジャーナルに論文が掲載されてきたことに加え、2019年のアメリカ経済学会やアメリカ・ファイナンス学会などでも独立したテーマとして取り扱われ、足下でも、中央銀行や規制当局などを中心に学術研究に関してセミナー等を通じ、活発に議論がなされている。もっとも、約2千種類*9にも及ぶ暗号資産に係る様々なデータが公開されているのにもかかわらず、我が国における学術的な実証研究は依然として低調であり、それを反映してか、国内で学術研究の紹介はほとんどなされていない。筆者らはそのような問題意識で、石田(2018)、石田・服部(2018)で学術研究の紹介を行ってきたが、本稿は特に2018年に学界で注目が大きかった「ビットコイン先物の導入」、「不正・規制」、「ICO(イニシャル・コイン・オファリング)」の3分野について56 ファイナンス 2019 May.連載日本経済を 考える

元のページ  ../index.html#60

このブックを見る