ファイナンス 2019年5月号 Vol.55 No.2
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ら始まりました。その後、太平洋自然災害リスク保険、そして、現在は、東南アジア災害リスク保険ファシリティも構想段階から日本が支援しています。G20、ASEAN+3、APECといった財務省関連の国際会議でも日本が本分野の議論をリードしており、防災から災害後の迅速な対応まで包括的に強化する災害リスク管理の重要性について財政施策の観点から議論されています。世界銀行は、災害リスク管理に関する日本の取組を世界銀行の途上国支援に活用するため、日本との連携により2014年に世界銀行東京防災ハブを設立しました。災害リスク管理の一部である災害リスクファイナンスについても、防災ハブを通じて、世界銀行は日本の官民の取組を途上国に紹介しています。以下、途上国政府が関心を持つ日本の事例を紹介します。・地震保険:地震等による被災者の生活安定に寄与するため、損害保険会社が提供する地震保険の一定額以上の損害を政府が再保険する制度です。特に、1)官民の分業・リスク分担、2)損害に応じた4段階の支払区分により、複雑な査定を要せずに迅速な支払いが可能、3)東日本大震災時に津波被災地について衛星写真を活用して損害査定、4)草の根ベースで発展してきた共済保険との併存、といった点が注目されています(Mahul and White 2011; Tsuda 2019)。・国有財産総合情報管理システム:財務省は、国有財産管理を目的に政府横断的なシステムを開発してきました。途上国の一部では、インフラや政府建物といった公共財産の自然災害リスクを管理し、保険に加入することを目的に公共財産データベースの開発に取り組んでいます。こういった国が、国有財産(道路等の公共用財産は除く)を統合的に管理する日本のシステムに関心を示しており、2017年には世界銀行の支援でベトナム政府がシステム視察のために来日しました。・国・地方自治体と建設業界との災害協定:国土交通省地方整備局や地方自治体は、地元の各種建設業関連団体と災害応急対策に関する協定を締結し、災害時の早期復旧のための実施体制や調達方法を事前に定めています。本取組は、資金動員を現場の災害復旧に結び付ける先進事例として各国に紹介されています。・損害保険各社の取組:日本の大手損害保険会社は、太平洋自然災害リスク保険、また災害リスク保険を応用する形で世界銀行が開発したパンデミック緊急ファシリティ(Pandemic Emergency Financing Facility:PEF)などの再保険を様々な形で引き受けてきました。現在は、東南アジア災害リスク保険ファシリティの保険商品開発に向けて世界銀行は財務省と連携しつつ、日本の損害保険会社と意見交換を重ねています。欧米の再保険会社と比べ、日本の損害保険会社は顧客との長期的な信頼関係を重視する傾向が強く、その意見は途上国政府向けの保険商品開発でも参考にされています。今後の方向性―日本への期待2011年の東日本大震災をきっかけに、日本は世界銀行との連携の柱として災害リスク管理・防災を掲げました。2012年に東京でIMF世界銀行総会が開催された際、ジム・ヨン・キム世界銀行総裁(当時)、クリスティーナ・ラガルドIMF専務理事等が出席した被災地視察や関連会合を通じて、日本は自ら復興に取り組むとともに、途上国の災害リスク管理に貢献する強いコメットメントを示しました。当時、世界銀行内では災害リスク管理はマイナーなアジェンダでしたが、この東京総会以降、理事会や増資交渉等での議論を通じて、今では自然災害やパンデミック等の危機に対する「レジリエンス」は世界銀行の途上国支援の一つの柱になっています。また、G20等を通じて国際開発分野で重要テーマとなっている「質の高いインフラ投資」でも災害リスク管理の重要性が反映されています。日本は世界でもまれにみる災害大国であり、その対応は国際的に進んでいるため、災害リスクファイナンスを含む災害リスク管理は資金貢献に加えて知的貢献と人的貢献をセットにして貢献できる分野です。世界銀行は災害リスク管理を重要分野に掲げて以降、専門チームを拡大しており、結果的に日本人も多く採用されています。他方、本分野は、欧米や途上国でも政策・技術の両面で目覚ましく発展しています。日本の技術を移転するという発想だけでは、他国に遅れをとるでしょう。日本の関係者は各国の需要に応じたサービスを提供す50 ファイナンス 2019 May.連載海外 ウォッチャー

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