ファイナンス 2019年5月号 Vol.55 No.2
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です。災害リスクファイナンスは、災害が防げなかった際に備えて、資金動員を事前に手当し、災害対応を迅速に執行することを目指しています。世界銀行の役割世界銀行は2011年に災害リスクファイナンスに関する途上国支援に特化した災害リスクファイナンス・保険プログラムを創設しました。現在、当プログラムに所属するスタッフは約15名おり、途上国財務省を主な対象として技術支援や融資などに従事しています。当チームは、プロジェクト管理や各国の財政・国有財産管理等の政策面での支援を担当するメンバーと、保険数理や災害リスクモデリングを専門にするメンバーに大別され、プロジェクトごとにチームを組みます。これまでに各地域60か国に対して技術支援や融資プログラムを提供しており、他の国際機関に比べても本分野では規模、専門性、グローバルな知見において、最も進んでいると考えています。世界銀行の災害リスクファイナンスに関するプログラムは以下のとおりに分類されます。・技術支援:途上国の災害リスク分析、法律制定・改正、政策形成のための技術支援。例えば、フィリピンではJICAとも連携しつつ、災害リスク分析、災害リスクファインナンス戦略策定、州政府等を対象にした災害リスクプールの設立、公共資産向けの災害リスク保険改革等に取り組んでいます。・融資プログラム:代表的なものは、事前にクレジットラインを定めておき、災害時の非常事態宣言などをトリガーとして、融資が実施されるCAT DDO(Catastrophe Deferred Draw Down)です。これまでにコロンビア、ケニア、フィリピン等に対して総計25憶ドルの融資契約を締結しています。政府が保険に加入する際の保険料補てんや政府内の災害復旧ファンドへの資金注入に関する融資も実施しています。・災害リスクプール:複数国が災害リスクをプールした上で国際保険市場にアクセスする仕組みで、1か国では国際保険市場にアクセスできない、または保険料が高額になるといった「市場の失敗」を克服するためのものです。2006年に日本の資金支援による世界銀行の技術支援でカリブ海島しょ国が設立したカリブ海諸国災害リスク保険ファシリティ(Caribbean Catastrophe Risk Insurance Facility:CCRIF)が先駆けです。2013年には、世界銀行と日本が連携して太平洋島しょ国を対象にした太平洋自然災害リスク保険パイロットプログラム(Pacific Catastrophe Risk Assessment and Financing Initiative:PCRAFI)を開始し、2016年にアメリカ、ドイツ、イギリスが支援国に加わって保険会社が設立されました。2014年と2018年にトンガのサイクロン被害に対して計4.8百万ドル、2015年にバヌアツに対して1.9百万ドルの保険金がそれぞれ災害後7日から15日以内に支払われています。最も新しい取組として、現在、世界銀行と日本は連携してASEAN+3財務大臣・中銀総裁会合での議論を軸にして東南アジア災害リスク保険ファシリティ(Southeast Asia Disaster Risk Insurance Facility:SEADRIF)設立を支援しています。2018年12月、インドネシア、カンボジア、シンガポール、ミャンマー、ラオス、そして日本がSEADRIF設立に関する覚書に署名しました(写真2)。なお、世界銀行の支援案件ではありませんが、アフリカにもイギリス及びドイツの支援でリスクプール(African Risk Capacity:ARC)が設立されており、中央政府を対象にした災害リスクプールは世界に4つあります(図3)。参考:政府が災害リスク保険に加入する?日本では、被災者支援やインフラの災害復旧・復興の多くの場面で国が財源確保するいわゆる「再保険者」としての役割を担っています。地震保険でも日本政府が再保険者となって最終的な支払い写真2:SEADRIF設立に関する覚書 署名式(2018年12月)48 ファイナンス 2019 May.連載海外 ウォッチャー

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