ファイナンス 2019年5月号 Vol.55 No.2
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災害リスクファイナンスに関する政策を立案する際、時間軸と資金量の関係を整理することが重要です。災害後の対応は、救助・復旧・復興の3段階に分かれます(Ghesquiere and Mahul 2010)。被災者の救出、避難所の設置等が必要な「救助」の段階では、大きな資金が必要でない一方、一日でも早い資金動員が求められます。道路などの公共施設の「復旧」は、通常、救助よりも緊急性はやや劣りますが、より多額の資金が必要です。インフラ整備や地域おこしといった「復興」はさらに大きな資金が必要ですが、計画段階の合意形成を含めて時間をかけて実施するものです(図1)。災害後の初期対応が遅れると社会・経済への負の影響が長期間に渡って生じるため、救助・復旧に必要な資金は事前に備えることが重要です。一方、復興に必要となり得る多額の資金は事前に備えると機会費用が大きいため、災害後に調達することが合理的です。日本の例でいえば、救助は都道府県による災害救助基金の積立て、復旧は国の毎年度当初予算による災害復旧事業費や予備費の計上、復興は災害後の機動的な予算編成などで対応しています。途上国特有の問題としては、自然災害後の資金流動性が低いことが挙げられます。財政面で予備費や基金を備える余力がなく、かつ国債発行等で早急に資金調達することが困難なため、国際的な支援に頼ることもままあります。災害後の国際支援に頼って、事前の備えがおろそかになるモラルハザードが生じているとも指摘されます。しかしながら、災害後の国際支援では、各国際機関・政府の支援金額や支援策決定まで1年程度かかり、さらには、各国政府に資金が振り込まれた後も具体的な被災地支援にたどり着くまでに複数年かかる例も多々見られます。このような問題を認識している途上国は増えており、災害後に即座に融資が実施されるクレジットラインの設定や災害リスク保険の活用など、様々な施策が打ち立てられています。災害リスクファイナンスと災害リスク管理災害リスクファイナンスは、災害リスクの予防、備え、対応を包括的に強化する災害リスク管理の一要素であり、災害を未然に防ぐ「防災」と補完関係にあります(World Bank 2019)。リスクに対応するには、事前にリスクを特定し、軽減し、備えることが重要です(図2)。途上国では、基本的な防災対策を整えずに都市化を進め、災害リスクを増大させている例がまま見られます。例えば、耐震性や排水設備の強化、メンテナンスの強化などに対しても資金が不足しているのが実情です。世界銀行では、全ての融資プロジェクトについて、災害リスクを検証し、必要があれば防災施策を講じるよう定めています。この方針は、IDA増資交渉や世界銀行理事会等の国際会議において日本が繰り返し主張したことが反映されたものです。国際的な指針である「仙台防災枠組み2015-2030」では、ハードとソフトの両面での防災強化が謳われています。ハード面では、例えば耐震性強化、排水能力強化等により災害に強く質の高いインフラを建設していくことが重要です。ソフト面では、防災計画の策定、建築基準の強化、土地利用政策の改善など制度的な面での改善が挙げられます。しかしながら、防災施策により災害発生を完全に防ぐことは困難です。防災施策には財源が伴い、自ずと資金面での限界もあります。途上国の財務省が災害リスクをマクロ財政施策の一部として意識し、防災と財務面での備えの両方を一体として強化することが重要図1:災害救助・復旧・復興の時間軸と資金量のイメージ資金量時間復旧出所:Ghesquiere and Mahul. 2010復興救助図2:包括的な災害リスク管理の概念柱2:リスク軽減柱3:リスクへの備え柱4:財政面での備え柱5:復旧・復興柱1:リスクの特定リスク測定、情報伝達出所:Ghesquiere and Mahul 2010より一部加工災害による偶発債務の分析、災害復旧事業費・予備費等の予算対応、事前・事後の資金調達早期警報システム、緊急対策、コンティンジェンシープランハード(インフラなど)、ソフト(土地利用計画、建築基準等)両面での対応復旧・復興計画・実施、ビルド・バック・ベター ファイナンス 2019 May.47海外ウォッチャーFOREIGN WATCHER連載海外 ウォッチャー

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