ファイナンス 2019年5月号 Vol.55 No.2
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はじめに平成を振り返ると、時代を代表するキーワードの一つとして自然災害が挙げられます。阪神淡路大震災(平成7年(1994年))や東日本大震災(平成23年(2011年))が最たる例ですが、日本のみならず、22万名以上が死亡したインドネシアのスマトラ島沖地震(平成16年(2004年))、約9千人の死亡・行方不明者を出したフィリピンの台風ヨランダ(平成25年(2013年))など、自然災害は各国の経済・社会に大きな被害をもたらしてきました。最近半年間だけでも平成30年(2018年)12月のインドネシアでの地震・津波、平成31年(2019年)3月のモザンビークでのサイクロンなど、世界では大きな災害が複数発生しています。令和元年(2019年)に日本が議長を務めるG20財務大臣・中央銀行総裁会合では、途上国開発支援の観点から、自然災害に対するレジリエンス(強靭性)、とりわけ自然災害に対する財務面での備え・対応に着*1) 本稿の執筆に当たり、財務省国際局の藤井大輔氏、野村宗成氏、向井豪氏、津田尊弘氏、玉田眞也氏、荒木勇樹氏、植野祐介氏、世界銀行日本理事室の島野敏行氏から助言をいただきました。この場を借りて厚く御礼申し上げます。なお、本文中の意見については、全て筆者の個人的な見解であり、筆者の所属する組織を代表するものではございません。目した「災害リスクファイナンス」がテーマの一つに取り上げられています。本年1月、東京において財務省・世界銀行・アジア開発銀行(ADB)がG20関連イベントとして共催した「包摂的な開発のためのイノベーションに関するセミナー」では、日本財務省の武内良樹国際局長のほか、世界銀行、国際通貨基金(IMF)、ADB、英国国際開発省の専門家が登壇し、G20各国の代表者も交えて災害への財政対応に関する各国・地域の事例と教訓について活発な議論が交わされました(写真1)。この災害リスクファイナンスが私が世界銀行で取り組んでいるテーマです。本稿では特に途上国開発の観点から、災害リスクファイナンスの概要、世界銀行の役割、日本と世界銀行との連携について紹介します。災害リスクファイナンスとは?災害リスクファイナンスとは、自然災害が起こった際に迅速かつ効果的に復旧・復興するため、事前に財政負担を明確にした上で財政面での備えを強化する仕組みです。日本では、1959年の伊勢湾台風、1995年の阪神淡路大震災などの大災害を通じて防災体制を強化する中で、国・地方公共団体間の財政負担、関連対策費・基金などの財政関連施策も整備してきました。1966年には住宅等を対象にした地震保険制度が整備され、官民連携で地震保険が提供されています。他国においても、中央・地方政府間の費用負担、住宅やインフラを対象にした災害保険制度など、様々な制度が整備されています。FOREIGN WATCHER海外ウォッチャー災害リスクファイナンス ~世界銀行の役割と日本との連携~世界銀行 金融セクター上級専門官 濱田 秀明*1写真1: G20セミナーでの「自然災害に対するレジリエンス」セッションの様子(2019年1月)46 ファイナンス 2019 May.連載海外 ウォッチャー

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