ファイナンス 2019年5月号 Vol.55 No.2
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巻頭言「歴史のいたずら」財務大臣補佐官井上 貴博165年前まで、日本はいわゆる「鎖国」を行っておりました。165年前の1854年に日米和親条約を締結して、下田と箱館の二港を開港。その後、1858年に日米修好通商条約を締結して自由貿易を開始し、日本は、「鎖国」から「開国」へと舵を大きく切りました。この時、世界の資本主義経済圏は日本にまで到達し、地球を一周することになりました。165年を経た今、日本が議長国として、我が国で初めてのG20を開催することとなりましたが、これは非常に興味深い意義を有しています。というのも、現在、世界各国に保護主義的な通商政策を採る傾向がみられる中、かつて欧米列強から迫られ鎖国から開国へと政策転換をした経験のある日本が、今や世界各国に対して、自由貿易と国際金融の重要性を訴えるという状況になっているからであります。そして、奇しくも麻生太郎財務大臣においては、明治維新の難局を乗り越え、岩倉具視使節団副使として伊藤博文や木戸孝允らとともに不平等条約の改正に尽力し、開国の礎を築いた大久保利通の玄孫であります。その麻生大臣が、160余年の月日を経て、いま、世界に向けて公平で公正なルールのもと行われる自由貿易と国際金融の重要性を訴えるというのが、本年6月8日・9日に福岡で開催される「G20福岡 財務大臣・中央銀行総裁会議」なのです。麻生太郎財務大臣は福岡県飯塚市の出身、黒田東彦日本銀行総裁は福岡県大牟田市出身であり、この会議は、議長国である日本を代表するお二方の故郷での開催となります。このお二方が、財務大臣として、日本銀行総裁として、G20のような大きな会議を、古代から大陸への玄関口であった福岡・博多の地で、議長国として主催するという側面においても、非常に興味深い意義を有する会議といえます。現在の世界経済は、10年前の国際金融危機を乗り越え、安定性を取り戻してはいるものの、近年では経済成長の勢いは弱まっている傾向で、またいつ起こるかもわからない危機に対して、事前にその芽を摘むことができるよう対策を検討していく必要があります。また、高齢化社会への対応、質の高い物的・人的インフラ整備のための投資、自然災害・気候変動対策、急速な技術革新に伴う金融サービスの大きな変化への対応など、伝統的な課題から時代の変化に伴って生じてきた新たな課題まで、世界各国と連携をとって対応しなければならない課題が数多くあります。私は、財務大臣補佐官として、「G20福岡 財務大臣・中央銀行総裁会議」の責任者という大役を仰せつかりました。この会議が今後の世界経済の方向性を決めるということを自覚し、麻生大臣・黒田総裁におかれても意義深いこの会議を成功させ、世界経済をより自由なものにし、世界経済の安定的かつ持続可能な成長の実現に資するよう、与えられた職責を果たしていきたいと存じます。また、この会議を通して、福岡市、福岡県、ひいては九州の魅力を世界の主要国の方々に広く知っていただき、ビジネス・プライベートを問わず、来福されるきっかけになれば幸いです。今月号には、この会議に関する特集が組まれております。詳しくは後述の特集記事に譲りますが、博多祇園祭の山笠と消防団の木遣り・纏まといの魅力を各国代表団や海外メディアの方々にもお見せする文化イベントを企画しております。提供される食事や土産品にも、オール福岡・オール九州の思いを込めています。福岡開催に向けた関係者の思いを、皆様と共有する一助になることを願っております。開催地である福岡市や福岡県、福岡県警、福岡経済界等、関係者の皆様のご協力に心より感謝申し上げます。ファイナンス 2019 May.1財務省広報誌「ファイナンス」はこちらからご覧いただけます。

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