ファイナンス 2019年5月号 Vol.55 No.2
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評者渡部 晶大谷 基道・河合 晃一 編著現代日本の公務員人事 ―政治行政改革は人事システムをどう変えたか第一法規 2019年01月 定価2,900円(税抜)本書は、行政学者として著名な稲継裕昭・早稲田大学教授の還暦を記念し、稲継教授の諸研究が明らかにした公務員人事の実態を踏まえ、それがその後どのように変化していったのか追うことを共通の目的に、ゆかりの深い若手・中堅の研究者が行なった共同研究の成果として、世に問われた。編者は、大谷基道・獨協大学法学部教授、河合晃一・金沢大学人間社会研究域法学系講師の2人である。「はしがき」で、稲継教授の学問的貢献について、「かつての公務員人事研究には、抽象的かつ規範的な議論に留まるものが多かった。そのような公務員人事研究において実証的な研究手法を確立させ、実態をより明らかにした」と解説する。巻末には「稲継裕昭先生の略歴及び業績」が付される。本書の構成・概要は下記のとおりである。共著であるが、参考文献と事項索引がきちんとひとつにまとめられていて、読者には嬉しいところだ。「序章 日本の公務員人事と人事行政研究」(編者による)では、上述の稲継教授のこの分野への貢献を、近年の公務員制度改革や先行研究を簡潔に整理しつつ、改めて紹介する。また、第1章以下の内容についてのサマリーを示す。第1部国家公務員編として、「第1章 官僚人事システムの変化と実態」(河合晃一)では、キャリア自治官僚の人事データを用いて、「遅い昇進システム」(入職初期の段階では昇進に差をつけず同一年次同時昇進を一定時期まで維持させる人事政策)や、政治介入を排除するための「キャリアパスの制度化」という特徴について大きな変化は生じていないとする。「第2章 官僚人事システムと『仕切られた専門性』―専門官の人事システムの構造と展望」(伊藤正次・首都大学東京大学院法学政治学研究科教授)では、試験制度の改革にも関わらず、「仕切られた専門性」に基づく人事管理に変化がみられないという。「第3章 公務員の専門性強化の試み―韓国の専門職位(専門官)制度を事例として」(申 龍徹・山梨県立大学国際政策学部准教授)では、日本でもつとに指摘される「専門性」強化の制度改革の流れについて概観する。「第4章 幹部人事と政治介入制度」(芦立秀朗・京都産業大学法学部教授)では、1997年の人事検討会議の設置など、90年代以降、政治介入制度は、介入の度合いを高めているとする。「第5章 出向人事研究の現代的意義」(村上祐介・東京大学大学院教育学研究科准教授)は、これまでの研究が、国と自治体のどちらが主導しているかばかりが論点とされてきたが、それぞれが足りない人的資源を相互に補い合うことによる最大限有効利用の実態解明を進めるべしとする。第2部地方公務員編として、「第6章 自治体における閉鎖型任用システムと『開放性』」(小野英一・東北公益文化大学公益学部准教授)では、採用システム改革や任期付職員制度の創設により、これまでの「閉鎖的」な任用システムの変化がみられるという。「第7章 ポスト分権改革時代における自治体の職員採用」(大谷基道)では、採用試験への負担軽減が、必ずしも求める人材を得ることに貢献していないことを分析する。「第8章 遅い昇進の中に隠れた早い選抜―自治体ホワイトカラーの昇進パターンと組織の機能」(竹内直人・京都橘大学現代ビジネス学部教授)では、4つの県の部長級職員の経歴を分析し、早い段階で人事課、財政課という「誰が何を知っているか」というメタ知識の担い手として貢献した職員が昇進していることを確認する。「第9章 特別職の議会同意と人事行政―なぜ議会は同意しないのか」(出雲明子・東海大学政治経済学部准教授)では、特別職の政務的な部分が議会の不同意を招いていることを示す。「第10章 大規模災害時の職員応援システムの展開―一般行政職等の自治体職員を事例に」(玉井亮子・京都府立大学公共政策学部准教授)では、大規模災害であった東日本大震災以降、緊急時には国の関与を認め、集権的に活動することの必要性が理解されつつあるという。「第11章 非常勤職員の発言と処遇改善―二つの自治体の事例」(前浦穂高・独立行政法人労働政策研究・研修機構副主任研究員)では、組合の結成により正規職員との処遇格差が縮小することが観察された。また、非正規職員の納得度を高めるため、非正規職員の職務を職務と処置のバランスが図られる形で限定することなどを提案する。いずれの章も示唆に富む。「人事行政は基盤行政」(辻清明)といわれるという。まさにその通りだろう。この重要性に鑑みて関係者の一読を是非お勧めする。 ファイナンス 2019 May.45ファイナンスライブラリーFINANCE LIBRARYファイナンスライブラリーライブラリー

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