ファイナンス 2019年5月号 Vol.55 No.2
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のを受け作られたそうなのです*2。そして、ルアンヌ自身が朝目覚めるシーンから始まって、自宅の古い日本の民家、そして風鈴が映り、女子高生風のルアンヌがピアノを弾き始め、そのあと、違和感の全くない日本の町並みが映ります。いきなり「退職の家」という看板が出てきますが、これはフランス語で老人ホームを意味する「maison de retraite」から来ているのでしょう。その後、喫茶店なのか「ルーアン」という看板が出てくるのはご愛敬で、Louaneをルーアンと表記したのではないかと思います。そして、ルアンヌが町を歩いて神社にたどり着き……といった感じで、なかなか良くできているのですが、何とこれを作ったのはフランス人。フランスは、日本のアニメが長い間人気を博しているのですが、実は、日本アニメを見て育った世代が、いまや日本風のアニメを自分たちの手で作り出しているのです。我々日本人は、日本人の手による「正真正銘」の日本の文化が一番だと思っているところがあって、海外で日本人以外の作った日本のコンテンツを見ると、本物じゃない、という意識になりがちなのですが、日本の文化がこのように海外の人に取り込まれたときに、初めて日本の文化が受容されたと言えるのではないかと思うのです(そして、それは逆に日本が海外の文化を吸収するときにやってきたことでもあるんですよね)。話が脱線しましたが、「Si t'étais là」の歌詞もなかなかグッとくるものがあります。このSi t'étais làというのは、フランス語では「仮定法過去」の用法でして、英語で言えばif you were here、「(今あなたはいないけど)もし、あなたがいたら」という意味なのです。そして、もしあなたがいたら、あなたはどう言うのかな、あなたはどうするのかな、という歌詞が、誰かとの別離か死別を思い起こさせるのです。2013年、2014年と、ルアンヌは相次いで父母を失っているので、そのことを頭に置いて歌っているのかもしれません。さて、二人目の歌手。オシ(Hoshi、フランス語はHを発音しないので「オシ」になります)という名の女性歌手です。ちょっとかすれ気味の、しかし力強い声の22歳の彼女は、ギターの弾き語りもできるのですが、*2) フランスのテレビ局フランスアンフォ(franceinfo)のサイトから。 https://france3-regions.francetvinfo.fr/auvergne-rhone-alpes/puy-de-dome/clermont-ferrand/deux-clermontois-realisent-clip-louane-si-t-etais-1356963.html*3) 音楽情報サイトJust music.frの2017年5月9日の記事。http://just-music.fr/interview-rencontre-hoshi/インタビューで「Hoshiという名前は日本語の星を意味するよね、日本の何に心惹かれてるの?」と聞かれて、「日本文化が大好きなんだ。マンガ、料理……全部に心を奪われてる(微笑)!日本に行くことを夢見ているんだ。だって、日本に関すること全部が好きだから」と答えています。そして、「日本語話せる?」と聞かれ、「話せないけど、日本語勉強しなければならないと思う。あ、『私の名前は星です』って言えたんだ(笑)」というちょっとお茶目なインタビュアーとの会話も出ています。そして、「日本かアジアで何かしてみたい?」と問われて、「もちろんやってみたい。だって、もしいつか、そこでコンサートをするチャンスが来たら本当にすごいことだもん(ce serait juste énorme)!」と答えています*3。彼女は、2017年に初めてのシングル「Comment je vais faire」(私、どうしたらいいのかな)を出した後、2018年に「Ta marinière」(あなたのボーダーシャツ)を出してヒットをおさめます。この歌はお互い惹かれ合っているものの、ぶつかり合って上手くいかないカップルを描いているのですが、「Derrière ta cigarette/Dans mon cœur/T'as fait un tabac」(あなたのくゆらすタバコの後ろ、私の心の中で、あなたは大当たり)と始まる歌詞は、いずれもタバコを意味するcigaretteとtabacの言葉遊びをしながら、「T'as fait un tabac」という、大ヒットする、という意味の慣用句も使っていてなかなか勉強になります。途中には、「Ne te découvre pas d'un l」という歌詞も出てくるのですが、これは、「En avril, ne te découvre pas d'un fil. En mai, fais ce qu'il te plaît.」(四月には糸一本とて脱いではいけない。五月になったら好きなようにしていい。)という、変わりやすい気温に備えて4月の薄着を戒めるフランス語のことわざを元にしており、ここでも言葉遊びのセンスを感じます。これからも若者の人気をつかんでヒットが続くのではないかと思わせる歌手です。三人目は、24歳の女性歌手アヤ・ナカムラ(Aya Nakamura)です。日本人かと思わせる名前ですが、マリ人のルーツで、マリの首都バマコで生まれ家族でフランスに移住してきました。本名はAya Danioko42 ファイナンス 2019 May.SPOT

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