ファイナンス 2019年5月号 Vol.55 No.2
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必要です。」、そして、「経済学の守備範囲は,多様に存在する不幸のうち,経済的な不幸をいかに未然に防ぐか,あるいは起きてしまった経済的な不幸に対して,どのように対応するかということが,経済学の基本的な役割なわけであります。」など数々の印象深い言葉を残している。再び、「はじめにで」も引用した多田氏の「沖縄イメージ」についての考察を引きたい。「イメージの円環、消費社会の円環の外へ、自分だけが抜け出すことは困難だ。むしろ、その円環の内部に踏みとどまり、こうしたイメージ込みの現実と、いかにつきあっていけるかが問われていくだろう。例えば、現実を単純化するイメージ、隠蔽するイメージに違和感をおぼえたならば、オールタナティブとして、より複雑でリアルなイメージをいかに代置できるかどうかが、問われるだろう。」*38沖縄経済については、慎重に経済数値などを分析・検討し、単純なイメージに流されない強さを持って取り組んでいけるよう精進したい。一方、同じく「はじめに」で紹介した石戸氏の「OKINAWAN RHAPSODY 僕たちは、この島を生きている」であるが、結論部分で「冒頭、表層的な政争のさらに奥にある現実、「複雑」の心底に何があるのか知りたいと書いた。見えてきたのは、「複雑」の奥にあるシンプルな本質だ。沖縄の問題は『米軍基地が多すぎる、経済が弱すぎる』ということに尽きる」と喝破する。この指摘の「経済が弱すぎる」ということを真摯に受け止め、沖縄振興においても、少しでも経済的な不幸を改善していければと改めて考えた。沖縄においても、SDGs*39についての関心がようやく高まってきた*40。これに取り組むことは、沖縄の諸課題の解決に向けてたいへん有意義と考える。この取り組みも踏まえて、沖縄公庫においても、関係者のネットワークを深化させ、さらに沖縄振興を前に進めていきたい。*38) 前出 多田治著「沖縄イメージの誕生」(2004年)170ページ。*39) 持続可能な開発目標(SDGs)とは,2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として,2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された2016年から2030年までの国際目標。持続可能な世界を実現するための17のゴール・169のターゲットから構成され,地球上の誰一人として取り残さない(leave no one behind)ことを誓っている。SDGsは発展途上国のみならず,先進国自身が取り組むユニバーサル(普遍的)なものであり,日本としても積極的に取り組んでいる。 出典:https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/about/index.html*40) 内閣府沖縄総合事務局は2019年3月5日、シンポジウム「沖縄の未来×SDGs(持続可能な開発目標)」を那覇市内で開いた。慶応大学大学院政策・メディア研究科の蟹江憲史教授がSDGsとの向き合い方について基調講演を行い、関係者のパネルディスカッションなども行われた。*41) https://www.pref.okinawa.jp/site/kikaku/chosei/seido/h30chousa.html 「平成30年に実施した第10回調査について結果をとりまとめ、平成31年3月26日に開催された沖縄県振興推進委員会においてその概要を報告しましたので公表」した。*42) 「定員内なのに「不合格」164人 2018年度・沖縄県立高校入試 九州他県の2~6倍」 https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/270634(2019年4月3日確認)(付論)本稿脱稿後、沖縄県が実施した第10回県民意識調査の概要*41が公表された。2019年3月28日付沖縄タイムス朝刊記事(第二面)では、以下のように報じられた。「県が2018年に実施した県民意識調査で、『重点的に取り組むべき施策は何か』との質問(三つまで回答可能)に、『子どもの貧困対策の推進』が42.1%となった。前回(15年、37.8%)、前々回(12年、33.7%)に最多だった「米軍基地問題の解決促進」は今回2位で、26.2%だった。(以下略)」また、同日付琉球新報朝刊記事(第一面トップ)でも「子どもの貧困に対する県民の危機感が浮き彫りになった。」と報じる。ここで、日本財団子どもの貧困対策チームの「徹底調査 子供の貧困が日本を滅ぼす 社会的損失40兆円の衝撃」(文春新書 2016年12月)を引きたい。本書の分析では、高校の進学のみならず、高校中退を防止することの重要性を示唆する。まずは、貧困にある子供たちが高校を卒業してきちんと仕事につけるようにするということが、当たり前ではあるが、やはり重要であると考えられる。その観点から、東京で一日遅れで地元紙を読んでいてびっくりしたのが、2018年6月21日付で沖縄タイムスのニュース・サイトに掲載されている「今春の沖縄県立高校入試で、定員に余裕があるのに最終的に不合格となる「定員内不合格者」が全日制・定時制合わせて164人だったことが20日、分かった。九州他県に比べて2~6倍多く、県内で中学卒業後に行き場のない若者を生み出す要因になっている。合否判定基準は学校によって違うが、素行不良や無断欠席、学力不足などが問題視されたとみられる。」という報道*42だ。文科省が2018年10月に公表した「平成29年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関36 ファイナンス 2019 May.SPOT

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