ファイナンス 2019年5月号 Vol.55 No.2
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この中において、「県内の中小企業等を取り巻く環境」について分析を行っている。この部分では、沖縄の中小企業関連の分析が評価に先立って行われているので、その部分を紹介する。・県内の中小企業等向け融資残高(図表6)近年の県内金融機関の中小企業等向け融資残高は、好景気を反映し、公庫・民間金融機関ともに漸増傾向で推移している。・開廃業率の比較(図表7)県内の開廃業率についてみると、廃業率が全国並みとなる一方、開業率は全国を大幅に上回る水準で推移している。今後も、(1)創業、(2)雇用創出・生産性向上へ向けた事業の維持・発展、(3)事業承継・再生等に至る各段階に応じた支援を通じ、廃業の抑制を図ることが地域の活性化に資するものと考えられる。・個人企業の生産性比較(図表8)企業の維持・発展には生産性の向上が必要となる。県内企業の約7割を占める個人企業について、付加価値と経営効率との関係から労働生産性(下式参照)を他の都道府県と比較すると、県内企業は付加価値面で全国を上回る一方、経営効率面では全国を下回る。この背景には、都市圏から離れた島嶼市場の狭小性があるものと考えられる。労働生産性=付加価値/従業員数=(付加価値/売上高)×(売上高/従業員数)=売上高付加価値率×従業員1人当たり売上高~付加価値要因~ ~経営効率要因~*31) 日本銀行那覇支店長であった沼波正氏(元政策研究大学院大学教授)の「私の見た沖縄経済―ある日銀マンの沖縄へのラブレター」(おきなわ文庫 2000年)は、沖縄の得意分野への「選択と集中」を説き、若者の意識改革を促し、人材育成こそが沖縄に課された最重要課題としていた。付加価値=仕入・営業と直接関係しない費用(含む減価償却費)+利益・雇用の安定性と産業人材の育成(図表9)経営効率の向上には設備・人材への投資が欠かせない。特に、効果の発現に時間を要する人材投資を促すには、雇用環境が安定的であることが望ましいと考えられる。県内の雇用の安定性について他の都道府県と比較すると、正社員倍率が非常に低く、非正規の従業員の割合は非常に高いことから、課題が残る。今後、雇用の質の向上と併せ、産業人材の育成を促す環境整備が重要となる。・代表者の平均年齢の全国比較(図表10)県内企業の代表者の平均年齢について、他の都道府県と比較すると平成2~29年の27年で7.3歳増と全国2位の上昇幅となっており、県内企業について業種別でみても3年前と比べ(平成26~29年比較)全業種で上昇している。今後、県内で代表者の高齢化に伴う事業承継等の重要性が高まるものと考えられる。4(参考) 日本銀行那覇支店 「うちな~金融経済レビュー」沖縄においては、中央銀行である日本銀行が公表する沖縄経済分析には、格別に大きな関心を持たれている*31。前出の内田教授の著作も、当時の日本銀行那覇支店が2000年に始めた「特別調査レポート」のシリーズがもとになっていた。2018年10月に、日本銀行那覇支店では、久方ぶり図表6 県内中小企業向け融資残高2,4382,4452,5242,5882,6792,82924,52625,70327,40529,25931,00932,92926,96428,14729,92931,84733,68835,758020,00040,000平成242526272829年度(億円)県内民間金融機関(地方銀行+第二地方銀行+信用金庫)沖縄公庫(中小企業資金+生業資金+生活衛生資金)資料:各金融機関ディスクロージャー誌等をもとに沖縄公庫作成(注)県内民間金融機関:県内に本店を置く金融機関、個人向け融資を含まない図表7 開廃業率の比較9.35.63.54.02.03.04.05.06.04.05.06.07.08.09.010.0平成20212223242526272829年度開業率(%)沖縄全国廃業率(%)資料:厚生労働省職業安定局「雇用保険事業年報」、同沖縄労働局「職業安定行政年報」をもとに沖縄公庫作成 ファイナンス 2019 May.33「魅せる沖縄」の今後SPOT

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