ファイナンス 2019年5月号 Vol.55 No.2
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る(移住希望:3.5%)が、一般的に人気が一番高いのは北海道(9.5%)である。沖縄県民でみると、北海道人気は国内一般より高い(14.7%)。統計データに詳しい本川裕氏は、「沖縄に対しては、北海道人が8.6%と最大の移住希望を表明しています。日本列島の両端に位置する北海道と沖縄が、相互に自分にないものを求めて相手の地への移住を希望しているのだと理解できるでしょう。ただし、北海道以外で沖縄を一位の移住先としている県はありません。沖縄に対してはまんべんのない人気が特徴です。沖縄のエキゾティックな南国イメージが評価されているのでしょう」と指摘する*5。沖縄駐在の中央紙記者が2009年に世に問うた「幻想の島 沖縄」は、このような「沖縄イメージ」(「疑似環境」)に大きな衝撃を与えた*6。すなわち、著者の日経新聞那覇支局長であった大久保潤氏は、「沖縄は歴史や文化が独自であると強調されることが多いのですが、実際に暮らしていて本土と違う独自性を感じることは、海と植物と天気などの自然環境以外にはあまりありません。むしろ良い面でも悪い面でも日本らしいと感じました。」という。そして、「島国日本の欠点とされる、視野が狭く、保守的でお上意識が強く、無責任で自己批判ができず、リスクをとって現状を変えようという意欲がなく、談合的体質が強く利権争いが絶えず、問題提起能力はあるが問題解決能力がなく、具体的な行動はせず批判や要望だけを繰り返し、独自の文化をもっているのに、それが自信にもつながっていない。その日本の悪い部分が凝縮された島―沖縄。そんな印象を持ちました」というのだ*7。*5) 本川雄著「統計データはためになる!」(2012年)*6) 大久保潤著「幻想の島 沖縄」(2009年)の「はじめに」では、ステレオタイプな沖縄のイメージをあえて壊すとして、「沖縄の晴天率は年わずか8日と全国一天気が悪く、多くのプロカメラマンは『晴れ待ち』で泣かされる。5月以降の半年間は粘り着くような高湿度に覆われ、日常生活で汗だくになる」からはじまり、「捨て猫、捨て犬が多い、本島の海岸線の多くは埋め立てられ、空気は排ガスで汚れ、街には緑が少なく歴史を感じる街並みも少ない。消費者金融とパチンコ店がやたらと多い。人口当たりのファストフード店、飲食店、肉の消費量、スナック菓子の消費量が極端に多い。電車がなくクルマ文化のためほとんど歩かない」などを指摘する。*7) 同じく、前出「幻想の島 沖縄」の「はじめに」のうち、「日本らしい沖縄」からの引用。 このような沖縄に対する辛口?の指摘としては、沖縄県の地方紙の1つである沖縄タイムスのウエッブ(タイムス×クロス 樋口耕太郎のオキナワ・ニューメディア)に掲載された樋口耕太郎・沖縄大学人文学部准教授による「沖縄から貧困がなくならない本当の理由(1)~(7)」も、沖縄の社会の在り方について深い洞察を示す。第1回(2016年6月3日掲載)~第7回(2018年8月17日掲載)。「最大の問題は、沖縄の社会構造がこれまで明らかにされてこなかったということにある」と指摘する。 出典:https://www.okinawatimes.co.jp/category/tc-s-higuchi(2019年3月18日確認) また、つい最近出版された「事大主義」(室井康成著 2019年3月)の「第3章 沖縄の『事大主義』言説を追うー『島国』をめぐる認識の相克」も示唆深い。事大主義とは、相互を鏡とすることで描いてきた自画像であり、事大主義の超越には、訓練による自己の確立が必要とする。*8) 内田真人著「現代沖縄経済論~復帰30年を迎えた沖縄への提言」(2002年)*9) 例えば、内閣府のホームページでは、「内閣府におけるEBPMへの取組」として、「EBPM(エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング。証拠に基づく政策立案)とは、政策の企画をその場限りのエピソードに頼るのではなく、政策目的を明確化したうえで合理的根拠(エビデンス)に基づくものとすることです。政策効果の測定に重要な関連を持つ情報や統計等のデータを活用したEBPMの推進は、政策の有効性を高め、国民の行政への信頼確保に資するものです。」と述べる。 出典:https://www.cao.go.jp/others/kichou/ebpm/ebpm.html(2019年3月20日確認)このように沖縄についてのイメージは、考察を深めるためには、それ自体かなり議論のあるところだということをはじめに指摘しておきたい。2沖縄経済を語る場合の難しさ日本銀行那覇支店長を務めた内田真人氏(現・成城大学社会イノベーション学部政策イノベーション学科教授)は、支店時代の沖縄経済の分析をとりまとめた2002年の著書*8の「はしがき」で、以下のように指摘する。「沖縄経済については、これまでにも政治面の分析や産業振興策についての文献が数多く、また雑誌・新聞での提言も多いが、客観的な経済データに基づく分析書が少ない。それは、(1)沖縄経済の規模が日本全体の1%未満と小さいため、沖縄を国民的視野で理解する必要性についての認識に欠けている、(2)これまで製造業中心の産業振興策が重視され、また基地問題への対応もあって政治的な解決の色彩が強いために、経済振興策等も資金の規模が先行しマーケットメカニズムを活用する視点が抜けている、(3)議論が主に沖縄関係者中心に行われており、経済のイメージに関する共通認識があるために定量的な分析が必要とされなかったーの3点が主な理由と考えられよう。」この点に関しては、内田氏の指摘から20年近くたつが、率直に言ってあまり変わっていないと思う。現在、日本の政策運営において、EBPM(エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング。証拠に基づく政策立案)の重要性が指摘されている。沖縄経済について語る際にも、できる限りこの点にこだわっていかなければと強く感じる*9。私自身のささやかな試みとして、2017年10月から ファイナンス 2019 May.25「魅せる沖縄」の今後SPOT

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