ファイナンス 2019年5月号 Vol.55 No.2
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わが愛すべき80年代映画論(第十八回)文章:かつお福岡を目指し、関門大橋を渡る2台のデコトラ。ナンバーは当然、白(自家用=軽く違法)。「一番星」こと星桃次郎(菅原文太*1)と「やもめのジョナサン」こと松下金造(愛川欽也)。2人のトラック運転手が織りなす人情ロードムービーは、『男はつらいよ』シリーズと並び、日本映画史に燦然と輝く傑作シリーズであることは言うまでもない。その第二作、福岡~長崎を舞台にした、お約束の低俗コメディ満載のエンターテインメント大作が、本作である。映画冒頭、朝方の博多の川沿いの屋台で、とんこつラーメンをかき込む桃次郎とジョナサン。もうそれだけで絵になる構図。「東海道中膝栗毛」の時代から、やはり珍道中といえば男2人と相場は決まっているのである。「俺の見合い写真をあの女(ドライブインで出会った太宰治好きの女子大生)に渡してくれよ。」という桃次郎の切なる願いに、「ああ、あの女(バキュームカーのドライバーの女)な。」と壮大な勘違いするジョナサン。ここからすれ違いが生まれ、ストーリーが動き出す。桃次郎がまず立ち寄ったのは、卑猥な本を売る博多の路上の本屋さん。「太宰治をくれ」というも、「なんだそれ?」という店主がすすめるのはいやらしい本ばかり。文句を言う桃次郎に、これまた福岡名物、こわいお兄さんたちがやってきて、桃次郎との大立ち回りが始まるのである。冒頭からの福岡テイスト満載の展開に、期待値が上がる。ちなみに、期待値は上がっても、ストーリーには変化はない。寅さんシリーズが「夢→旅先で出会い→とらや→ケンカと家出→再会→ふられる→旅」という基本フォーマットに則って展開されるように、本シリーズも、「マドンナに一目惚れ→付け焼刃のインテリ知識で猛アタック→ライバルトラック運転手と大喧嘩→マドンナにふられる→時間が足りない中での爆走配達→成功して旅立つ」という基本フォーマットを頑なに堅持することで、物語の安心感を観客に与えていることで有名。本作もその基本フォーマットを一歩も出ない構成である。*1) DVD表紙画像参照*2) イタリア高級帽子メーカー「Borsalino」との関係は不明である。そんなこんなで桃次郎の恋愛模様が変な風に進んでいく傍らで、現れたるはライバルトラック野郎、田中邦衛。真っ白な三つ揃えのスーツをビシッと着こなし、帽子にサングラス。およそトラック運転手に見えない、完全なる「マフィア・ファッション」に身を包むその男こそ、「ボルサリーノ」軍団を率いる「ボルサリーノ2」と名乗るドライバーなのである*2。この「ボルサリーノ2」と「一番星」桃次郎が、激しい喧嘩バトルを繰り広げ、なぜそうなったかは不明であるが、とにかくデコトラ往復100キロの公道レースで決着をつけることになる。この超絶デコトラ・バトル、70年代ということを十分勘案しさえすれば、『マッドマックス 怒りのデスロード』(2015年豪州・米国)のジョージ・ミラーが裸足で逃げ出すようなド迫力である。結局、女子大生にはふられ、大晦日、ひょんなことで出会った出稼ぎのおっさんを小さな子供たちが待つ家に、除夜の鐘までに届けるというお約束の「時間ミッション」に突入するクライマックス。猛スピードで飛ばす一番星。県警の白バイを振り切ったことで、複数台のパトカーに追走される。無線で応援を呼ぶ桃次郎。真っ先に駆け付けたのは、なんとかつて命がけのデコトラ勝負で争った、「ボルサリーノ2」であった。デコトラドライバーたちの男の友情に、観客のテンションはマックスとなる。「ボルサリーノ、ありがとうよ。てめえもいいトラック野郎だぜ。」という桃次郎に対し、「バカヤロウ。浪花節はきれえだって、言ったはずだぜ。」と夜でもサングラスで運転をする、いや、それ、いいトラック野郎なのかどうか疑問が湧くものの、とにかくキザで格好いい田中邦衛の演技が光る。福岡・九州を舞台に、ボルサリーノが大活躍。迫りくる福岡での国際会議を彷彿させるその展開に、国際局を中心とする財務官僚たちの胸が熱くなる本作を、事前に観ておく必要があるかないかで言えば、特にないことは、言うまでもない。DVD発売中 2,800円+税販売:東映 発売:東映ビデオ監督・脚本:鈴木則文出演:菅原文太、愛川欽也、あべ静江『トラック野郎 爆走一番星』1975年 ファイナンス 2019 May.23わが愛すべき80年代映画論連載わが愛すべき80年代映画論

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