ファイナンス 2019年5月号 Vol.55 No.2
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「質の高いインフラ投資」とは、災害に対する強靭性などのインフラそのものの物理的な価値を超えて、雇用創出、能力構築、及び民間投資促進といった経済への波及的効果をもたらします。本年のG20においては、経済性、環境・社会配慮、インフラ・ガバナンス(利用の開放性や債務持続可能性)等の観点をハイライトし、ハイレベルの原則を策定すべく、議論を重ねています。(E)自然災害に対する強靭性の強化世界各地で自然災害が増加する中、日本は、自然災害に対する強靭性の強化を重要な開発課題の一つとして位置付けてきました。今年のG20においては、自然災害に対する財務面での強靭性の強化の観点から、災害リスクファイナンスの成功事例集を取りまとめる方向です。(F) 途上国におけるUHC(Universal Health Coverage)ファイナンスの強化持続可能な経済発展を支えるためには、物的インフラだけでなく、人的資本というソフトインフラの整備も重要です。その観点から、今年のG20では、UHC達成に向けた持続的な保健財政システムの構築、特に途上国におけるそうした取組を推進することとしています。具体的には、UHCを支える持続可能なファイナンシングの重要性に係る共通理解を取りまとめることとしています。また、G20大阪サミットの機会に、保健省と財務省が協働する必要性について認識を共有すべく、各国の財務大臣及び保健大臣が一堂に会して議論を行う予定です。(G) 低所得国における債務透明性の向上及び 債務持続可能性の確保現在、一部の低所得国で債務が急速に積み上がり、その持続可能性に懸念が生じています。この問題の解決には、債務国だけでなく、公的及び民間の債権者など、幅広い関係者が協働することが重要です。G20においては、国際機関と協力しながら、各般の取組を進めています。Ⅲ技術革新・グローバル化がもたらす 経済社会の構造変化への対応急速に進むデジタル化等の技術革新やグローバル化は、世界の社会・経済構造やビジネスモデルを大きく変化させてきており、これを健全な成長につなげるべく、国際経済システムの分断を避けつつ、政策面の対応を行うことは、先進国・途上国問わず直面する喫緊の課題です。(H)国際租税経済活動がグローバル化する中、各国ごとのバラバラな租税制度の設計や執行はBEPS(税源浸食と利益移転)リスクをもたらすため、国際的な協調が必要です。特にインターネットを通じて大量のデータを収集・活用する高度にデジタル化されたビジネスモデルは、物理的拠点を課税根拠とする現在の国際課税原則に課題を突き付けています。本年のG20ではこのようなデジタル化に伴う課税上の対応の他、税務当局間の情報交換などによる租税回避・脱税への国際的な対応に引き続き取り組みます。(I) 金融市場の分断を回避する国際的な連携・協力世界金融危機から10年を経て、国際的な金融規制改革のほとんどは最終化されました。一方で、各国・地域間の規制の矛盾や重複により、金融機関のクロスボーダー活動に意図せざる悪影響が及び「金融市場の分断」が生じることが新たな課題となっています。例えば、国際基準の各国における実施時期や内容にずれが生じ、これらが整合的に実施されていれば本来不要であったコストが生じるといった事例が起きています。このように、金融市場の分断が、危機時に金融システムの安定性を脅かすことや金融仲介機能の効率性を損なうことを回避するため、金融市場の一体性を阻害しうる事例・課題を明らかにし、実践的アプローチを検討したいと考えています。(J)金融セクターにおける技術革新―機会と課題急速にデジタル技術が進展する中、技術革新がもたらすリスクに適切に対処しながら、機会を活かすための取組みを進めることが重要です。暗号資産のリスクに対応するため、マネロン・テロ資金対策の強化や、投資者保護・市場の健全性確保に関する手引書の策定、当局者台帳の策定などを通じ、国際的な連携を促進していきます。加えて、暗号資産に限らない金融技術革新に伴うマネロン・テロ資金対策の検討を深めていきたいと考えています。また、6月には福岡で技術革新にかかるハイレベルセミナーを開催し、技術革新の機会とリスクを概観するとともに、暗号資産の基礎となる分散型金融技術が金融セクター及びより広く経済に便益をもたらすよう、金融当局・金融機関に加え、技術開発者や学識経験者など幅広いステークホルダーの間で議論を行います。 ファイナンス 2019 May13

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