ファイナンス 2019年5月号 Vol.55 No.2
11/96

G20福岡財務大臣・中央銀行総裁会議への期待G20各国の財務大臣や中央銀行総裁は、福岡会議の準備を進める中で、開催地であるこの福岡という都市からインスピレーションを受けることができるでしょう。福岡は古くからの伝統の上に築かれ、貿易の中心地として栄えてきました。イノベーションや世界的なスタートアップ企業を受け入れ、今も前進し続けています。世界経済が繊細な時期に直面しているなかで、経済の開放性と力強い地元との結びつきというこの組み合わせは、かつてないほどに重要となっています。差し当たっての課題は、世界経済の減速に対処し、本年後半から2020年にかけて期待される成長を下支えすることです。中期的には、生産性と成長力を高める構造改革が引き続き必要不可欠です。さらに広く考えると、各国は根本的な変化に直面しています。気候変動は人類の存在を脅かす脅威となっています。デジタル技術は、金融包摂の拡大だけでなくサイバー攻撃のリスクももたらしています。経済的不平等の拡大によって、何十億もの人々を貧困から救い出してきた自由貿易システムへの支持が弱まっています。これらはこの重大な局面に世界経済が直面している課題の一部にすぎません。解決策は、より包摂的な成長を育むための各国固有の力強い政策と併せて、経済開放と協力をさらに進めることの中にあります。これが、福岡が我々に教えてくれることであり、私が「新しい多国間主義」と呼ぶものの中心でもあります。これは何を意味するのでしょうか。それは、あらゆる取り組みの中心に人々を据えて協力し、生活を向上させる具体的な結果に焦点を当てることを意味しています。また、それは多国間主義の責任と恩恵が幅広く確実に共有されるようにすること、さらには、差し迫った難問に取り組むことを意味しています。こうしたアクションをとることの切迫した必要性は日本のG20議長国のアジェンダに反映されています。1. グローバル・インバランス世界金融危機以来、不均衡は縮小されていますが、ここ数年は進捗が遅れています。不均衡を減らそうとするのであれば、各国はこの問題に共同して責任を負っているという意識を高める必要があります。例えば、経常黒字国は財政余地がある場合には政策対応に使うことができます。同時に、経常赤字国は成長を阻害しない財政再建の取り組みを一層強めることができます。2. 債務脆弱性低所得国の約40%は過剰債務のリスクが高いかすでに過剰債務に陥っています。債権者と債務者の両者が債務の透明性を高め持続可能な資金調達慣行を推し進めることが、低所得国の強靭性強化の支援に不可欠です。世界銀行とともに、IMFはこれらの過剰債務への取り組みを支援するための様々な角度からのアプローチを実行しています。3. 人口動態の変化世界は大きな変化に直面しています。多くの先進国では高齢化が進み、低所得国や発展途上国の大部分では人口が急速に増加しています。この変化の潜在性を強化するため、労働市場や移民制度の現代化をはじめ、ビジネス環境の改善や世界貿易システムの改革といった改革に取り組む必要があります。こうした改革により、若者や女性を中心に投資、成長、そして雇用を促進することができます。また、女性労働参加率の向上は、高齢化が急速に進む経済においてその影響を緩和するために特に重要です。これらの課題に取り組むには、さらなる協力が必要です。強靭性や包摂性を強化するためには、広く支持された国内政策が必要です。人や企業のための、国際的に平等な競争の機会を作る必要があります。そして、どんな国であれ自分達だけでは解決できない世界的な課題に取り組むために、より強力なパートナーシップが必要です。G20が来月の会議に向けて準備をする中で、開放性と協力という「福岡の精神」を最大限活用しようではありませんか。迅速に、ともに行動しようではありませんか。〔仮訳〕 ファイナンス 2019 May7

元のページ  ../index.html#11

このブックを見る