ファイナンス 2019年4月号 Vol.55 No.1
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新緑が目に留まる季節になり、花粉の飛散も減り、気候も暖かくなってきて、なんとなくどこかに遠出でもしようかと思われる頃。最近、ちょっとした旅行を計画する折にチェックするようにしているのは、各国税局の出している「酒蔵マップ」。各管内(または各県内)の酒蔵がどこにあるのかが一目でわかる。代表銘柄や連絡先の他に、売店があるのかどうか、蔵見学が可能か、英語パンフレットがあるか等の情報も盛り込まれていて、宿の近くに、あるいは日帰りで行ったゴルフ場付近にどんな酒蔵があるのか、地元の銘柄は何かといったことを調べる事ができて、個人的に大変重宝している。確か私が初めてこの地図について耳にしたのは2~3年ほど前で、インターネット上で、関東信越国税局で作成したなんらかの資料がえらく評判を呼んで、Twitterなどでも通常のお役所の文書とは桁違いの反応をいただくなど好評を博している、という話からだったように記憶している。それが、「酒蔵マップ」だったと知り、お酒という身近な飲料と、その地場性に対しては、多くの人が関心を寄せるものなのだということに気づいた。当時は、清酒の酒蔵マップのみだったのが、評判を呼んだことからそれ以外の酒類についても地図を作成したり、他の国税局にも広がって行ったりし、今ではほぼすべての国税局が同様のものを出すまでに広がったものと理解している。国税局ごとに異なるが、清酒マップの他、清酒以外(ワインや焼酎、どぶろくなど)の地図があったり、英語のほかに中国語、韓国語での地図も出している国税局もあるなど、各地の特色があるものとなっており、見ているだけでも想像が膨らみ楽しい。ところで、旅に出る時に、地元のお酒を飲んだり、酒蔵に行ったりするのは私などにとっては大きな楽しみの一つなのだが、皆さんは、蔵見学にどのようなイメージをお持ちだろうか。酒の香りが立ちこめて、蔵人がひっきりなしに行き交い活気がある蔵、行ってみたものの基本的に貯蔵のみしているザ・建物としての蔵だった、近代的なステンレスタンクが並んでいてイメージと違ったなど、色々な印象があると思うが、これらのイメージは、寒造を基本とする日本の昔ながら(といっても江戸時代も半ば以前は通年で造っていたようだが)の酒造りをする酒蔵について言えば、何月頃蔵に赴いたかという季節によるところが大きい。秋口に杜氏が蔵元にやってきて冬の間に酒造りを行う昔ながらの酒造りをしている蔵では、春先までで杜氏集団の活動期は終わり、蔵と道具を綺麗に洗浄・片づけて、去っていく。そのため、夏場の蔵は静寂と清潔感、そしてほのかな酒の香りが漂う、がらんどうの空間となっている。今の季節に出回る、火入れをしていない、出来上がったばかりの生酒や濁り酒(おりがらみ)は格別だ。ただ、火入れをして暑い夏を越させ、秋口に出回る熟成したひやおろしの酒も、今の季節の若い酒とは異なって、これまた味わい深い。もう少しすると、酒が眠りに着く。その現場であるところの酒蔵に、酒蔵マップを参考に、この時季に足を運んでみるのはいかがだろうか。〈酒蔵マップ〉※ 各国税局ごとに掲載ページが異なるため、ここでURLをご紹介することはしないが、ご関心あられる方は、ぜひインターネットで「酒蔵マップ ○○県(又は○○国税局)」で検索していただければと思う。お酒まわりのあれこれ第4回:旅と酒蔵マップ増田 満 ファイナンス 2019 Apr.65お酒まわりのあれこれ連載お酒まわりのあれこれ

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