ファイナンス 2019年4月号 Vol.55 No.1
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様な労働者が働けるサポート環境の構築を促進するような技術の重要性を指摘している。また、吉川・八田(2017)は、高齢化社会には特有のニーズがあるため、社会に合わせた財・サービスのイノベーションとそれを可能にする土台としての制度・規制のイノベーションをともに推進できれば経済成長を持続できると主張しており、このような新しい経済成長モデルを「エイジノミクス(agenomics:age+economics)」と称している。彼らは著書のなかで、日本におけるエイジノミクスのイノベーションの一例として、介護ロボットHAL®を挙げている。これは筑波大学発のベンチャーCYBERDYNEが開発した「身体機能を改善・補助・拡張・再生することができる世界初のサイボーグ型ロボット」で、人が体を動かそうとする際に脳神経から出る生体電位信号をもとに、ロボット装着者の意思に従った動作を可能にする。神経・筋難病疾患に対する「新医療機器」としての薬事承認も受けており、2016年にはHAL®への保険適用も始まり、歩行のリハビリ等に活用されている。このような工学的な技術だけではなく、制度や規制のイノベーションもまた重要な役割が期待される。たとえば、シルバー人材センターでの就労時間制限緩和はその一例だ。シルバー人材センターは高齢者に対し短期的で軽易な仕事を紹介する公益法人であるが、過去の制度のもとでは、職業斡旋の民業圧迫を避けるため週20時間までの就労という制限を設けて紹介していた。2016年から、高齢化で人手不足が生じている地域の実情に合わせて、週40時間を超えての就労も紹介できるよう条件緩和を行う自治体が増えている。これらはいずれも、イノベーションを高齢化の負の影響を相殺する要素、あるいは一層の経済成長に繋げる好機とする主張となっている。4.実証分析4-1.成長会計分析経済成長を資本・労働・技術進歩の3つの要因に分解する成長会計分析では、資本・労働の2つの生産要素の投入によって説明できない生産の変動要因を技術革新や生産の効率化などをあらわすTFP(Total Factor Productivity,全要素生産性)とみなしている。日本では、潜在成長率の変動に対するTFP成長率の寄与度が高く、潜在成長率の変動の多くがTFP成長率の変動によって説明されることからも、TFPの成長が経済成長のエンジンとなっていることがわかる。一方で、日本の潜在成長率における労働投入の寄与度は長年低い(図5)。このことから、少子高齢化によって労働投入の減少が予想されるなかでも、TFP改善によって経済成長の鈍化を防ぐことができるかもしれない。4-2.高齢人口シェアに注目した分析高齢化が経済成長に与える効果をより厳密に回帰分析を用いて実証に分析している研究も多い。これらの研究の契機のひとつは、「東アジアの奇跡」と呼ばれた1960年代半ばから1990年代の東アジア地域の国々の急速な経済成長である。Bloom and Williamson図5.潜在成長率の要因分解-101234519811986199119962001200620112016労働資本TFPGDP成長率(%)(出所)内閣府(年) ファイナンス 2019 Apr.61シリーズ 日本経済を考える 88連載日本経済を 考える

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