ファイナンス 2019年4月号 Vol.55 No.1
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過去の「シリーズ日本経済を考える」については、財務総合政策研究所ホームページに掲載しています。http://www.mof.go.jp/pri/research/special_report/index.html経済成長と人口動態 ―Gray Rhino―*1財務総合政策研究所総務研究部 研究員永井 里奈シリーズ日本経済を考える881.はじめに世界の高齢化が進んでいる。図1は世界の65歳以上と5歳未満の人口の推移を示したものである。5歳未満の人口がほぼ横ばいで推移しているのに対し、65歳以上人口は増加の一途をたどっている。このような高齢化は「黒い白鳥(Black Swan)」というよりも「灰色のサイ(Gray Rhino)*2」とでも言うべきものであり、とくに急速な高齢化に直面している東アジア各国をはじめとして各国の重要な政策課題となっている。実際、2019年1月に東京で開催されたG20財務大臣・中央銀行総裁代理会議に際しては、「よりよい未来のために:人口動態変動とマクロ経済面での挑戦」と題されたシンポジウムが開催され、人口動態がマクロ経済、財政・社会保障システム、金融政策運営*1) 本稿の執筆にあたって、別所俊一郎総括主任研究官(財務総合政策研究所)に御指導いただいた。また、奥愛総括主任研究官(同研究所)、林ひとみ主任研究官(同研究所)からも有益なコメントをいただいた。ここに記して深く感謝の意を表したい。なお、本稿の内容や意見はすべて筆者の個人的見解であり、財務省あるいは財務総合政策研究所の公式見解を示すものではなく、本稿における誤りはすべて筆者個人に帰するものである。*2) 「黒い白鳥(Black Swan)」は、2006年に認識論学者Nassim Nicholas Talebが提唱した考え方で、「確率は低いが起きたときには市場に甚大な影響を及ぼすリスク」を指す。また、「灰色のサイ(Gray Rhino)」は、「高い確率で存在し大きな問題を引き起こすにもかかわらず軽視されがちな問題」を表す言葉で、たとえば少子高齢化、金融危機、気候変動等を指す。2013年に米国の作家・政策アナリストMichele Wuckerが世界経済フォーラム(ダボス会議)にて提起した。や金融システムに与える影響についてさまざまな議論が行われた。本稿では経済成長に与える影響に焦点を絞り、これまでに行われてきた分析や議論を再確認していきたい。まず、日本の人口動態の現状をデータで確認し、人口動態と経済成長について理論的に整理したのち、いくつかの実証分析を紹介する。2.日本の人口動態2-1.人口転換日本の近年の人口動態は少子化と長寿化で特徴づけられる。図2に示されるように、日本における人口1000人当たりの死亡率は1910年代から、出生率は戦後から急速に低下して、1950年頃に「人口転換」を終えたと考えられる。「人口転換」とは、「多産多死」図1.世界の65歳以上・5歳未満人口割合024681012141618199020002010202020302040205065+5-(出所)United Nations, World Population Prospects図2.粗出生率と粗死亡率(人口1,000人当たり)0510152025303540190719171927193719471957196719771987199720072017(年)出生率死亡率(出所)厚生労働省「人口動態統計」(人)58 ファイナンス 2019 Apr.連載日本経済を 考える

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