ファイナンス 2019年4月号 Vol.55 No.1
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ジェクトであるインフラへの投資を加速させる等の方針が公表され、中国政府による景気下支えの姿勢が鮮明になっている。これは減税や行政手数料の引下げ等により、企業と個人の負担を軽減することや、鉄道・自動車道路等といったインフラ関連への投資を公表した2016年と多くの取り組みが共通している。【金融政策】さらに、金融政策についても、2016年は、小企業・零細企業や三農(農業・農村・農民)などへの支援を強化するとされたが、2019年は資金繰り難や資金調達コスト高といった民営企業や小企業・零細企業が抱える問題に対処する方針が示され*5、共にやや緩和的な方針がとられた。【2016年との相違点】2016年の活動報告と比較し、過剰生産能力の削減に関する数値目標が設定されなかった点は大きな違いである。過剰生産能力の削減に関する数値目標については、2016年から開始された第13次5ヵ年計画において、5年間で削減する数値目標が設定され、2016年から2018年までの各年度においてもそれぞれ数値目標が掲げられていた。今回はそのような年間の目標の設定がなかったが、中国政府は過年度において十分な削減を実現し、目標を前倒しで達成したことを発表しており、数値目標の設定が無かったことをもって政府の方針が転換されたと評価する必要はないと考える。実際、2019年においても「供給側構造改革を主軸として堅持する」との見解を示していることから、引き続き、過剰生産能力や過剰債務の解消といった供給側の構造改革を進めていく方針は維持している様子はうかがえる。【今後の見通し】このように中国政府は、チャイナショックによる景気減速から安定的な経済成長へ軌道修正した、かつての経験を踏まえて景気対策を実施しているようにも見え、今後は、徐々に各種政策の効果が現れ景気は持ち直しの動きが出てくることが期待される。他方、過剰債務など構造的な問題を抱える中で【図4】、安定した経済成長を維持していくことは、難しいかじ取りを強いられることになるため、引き続き中国の経済動向について注視していきたい。(注)文中、意見に係る部分は全て筆者の私見である。*5) 2019年は、国有大型商業銀行の小企業・零細企業向け融資を30%以上増やすこと等が明記された。【図3】主要な経済指標の2019年目標2019年目標2018年目標(参考)2018年 実績実質GDP成長率(前年比)6.0~6.5%6.5%前後6.6%消費者物価上昇率(前年比)3.0%前後3.0%前後2.1%社会融資総量(前年比)名目GDPの 成長率と同水準2017年度の伸び率と同じ規模になる ようにする9.8% (2017年 12.0%)通貨供給量(M2) 伸び率(前年比)8.1% (2017年 8.2%)財政赤字(中央・地方合計) (対GDP比)2.8%2.6%2.6%都市登録失業率4.5%以内4.5%以内3.8%都市部新規就業者数1,100万人以上1,100万人以上1,361万人農村貧困人口の脱貧困1,000万人以上1,000万人以上1,386万人【図1】中国貿易の推移▲40▲20020406014710147102201720182019(前年同月比、%)輸出輸入(出所)中国海関総署2019年2月輸出:▲20.7%輸入:▲5.2%(年)【図4】民間債務残高の推移7090110130150170190210230199019952000200520102015(対GDP比、%)(年)英国日本米国欧州中国(出所)BIS【図2】中国の実質GDP成長率の推移3.96.60246810121416198890929496982000020406081012141618(前年比、%)(出所)中国国家統計局(年)1990年以来、28年ぶりの低水準 ファイナンス 2019 Apr.55コラム 海外経済の潮流 121連載海外経済の 潮流

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