ファイナンス 2019年4月号 Vol.55 No.1
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考会等に呼び、好成績を出せば、更にトライアルを重ねて強化選手として位置付け支援していくのです。高校球児は全国で約15万人いますが、試合に出られるのはわずか5万人です。残り10万人は球拾いとかスタンドでの応援などで、1年に1回も試合に出ない。この10万人の中には他の競技に転向すれば、活躍できる人がいるはずです。例えば、水泳競技の一種の飛込は、泳ぎの部分はわずかで体操に当たる部分が大半です。そこで体操選手の1.5軍レベルの選手を集めたところ、その中から飛込で全国3位レベルの若者が出てきています。このように工夫と知恵があれば、良いアスリートを発掘できるのです。●競技団体の経営力強化国際競技力の向上と並んで、競技力向上や競技普及の基盤となる「競技団体の経営力強化」も取り組むべき重要な課題です。そのため、外部人材の参画促進、スポーツMBAの実現、様々な業界の人たちにスポーツに参画してもらうスポーツオープンイノベーションなどに取り組んでいます。●スポーツがもたらす新しい価値の発信2000年以降、シドニー、バンクーバー、ロンドンと先進国でオリンピック・パラリンピックが開催されましたが、どの都市も大会の前後での国民のスポーツ実施率が向上していない、または調査すらしていません。2020年の東京大会においては、初めてオリンピック・パラリンピックを開催すると、国民がスポーツを行うようになる、健康になる、という新しい大会の価値を発信したいと考えています。どの国でも競技力向上に取り組みますが、それだけでなく、スポーツを通じて社会の課題をどのように解決していくのかに関心を持っています。スポーツを行うことで健康になり、国民医療費も抑制される、そして新しい活動がどんどん実施していけるようになる、スポーツがもたらすこのような新しい価値を東京モデルとして発信したいと考えています。4.おわりに単にメダル獲得数を増やすだけでなく、スポーツの価値を高めていきたい。スポーツは健康にもビジネスにも良い、医療費も抑制し、地方活性化にもつながる、スポーツを通じた外交も可能です。すべきことは多くありますが、これからがスポーツ庁の力の見せどころだと考えています。ご清聴ありがとうございました。講師略歴鈴木 大地(すずき だいち)スポーツ庁長官競泳選手として1984年ロサンゼルス、1988年ソウルオリンピックに出場。ソウルオリンピックでは男子100メートル背泳ぎで、日本競泳界に16年ぶりの金メダル。順天堂大学大学院を卒業後、米コロラド大学ボルダー校客員研究員、米ハーバード大学のゲストコーチなどで留学を経験。2007年には順天堂大学で医学博士号取得し、2013年同大学教授。同年には日本水泳連盟会長、日本オリンピック委員会理事に就任。2015年10月より現職。また2016年10月にはアジア水泳連盟副会長、2017年7月には国際水泳連盟理事にそれぞれ選任。飛込種目への転向を目指す若い選手たちを激励する鈴木長官 ファイナンス 2019 Apr.51職員トップセミナー 連載セミナー

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