ファイナンス 2019年4月号 Vol.55 No.1
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巻頭言「心こそ大切なれ」財務大臣政務官伊佐 進一わたしが政治家として、常に胸に刻んで忘れないようにしている実話があります。それは、インド独立の父、ガンジーの話です。ガンジーが、ある会議を前にそわそわと落ち着かない様子でした。周りをキョロキョロ見渡したり、机の下にかがみこんだり。近くにいた人がガンジーに「どうしましたか?」と尋ねると、「いや、鉛筆がなくなったんだよ。」とのこと。そこでその方が、「どうぞそれなら、わたしのを使ってください。」と鉛筆を渡そうとしたら、ガンジーはにべもなく断りました。「いや、その鉛筆じゃ、ダメなんだ。」周りを巻き込んで、一緒になって会議室の大捜索がはじまりました。しばらくして、ようやく隅っこに、小さなちびた鉛筆が見つかりました。ガンジーは、言いました。「これだ、これだ。これじゃなきゃダメなんだ。」実はこの鉛筆は、ガンジーが独立運動のために全国を歩き回っていたときに、一人の貧しい少年からもらったものだったそうです。インド独立のために、「自分も何か役にたてないか」。貧しい少年にとって、一本の鉛筆は大切なものでした。その鉛筆を、ガンジーの運動のために進んで寄付してくれたそうです。ガンジーは小さくちびた鉛筆を、使い続けました。この鉛筆の「思い」を忘れるようでは、何のための政治か、だれのための政治か。一人の少年の「心」を忘れて、いくら政治を論じても、それは空論にすぎない。ガンジーはそう言ったそうです。ところ変わって、大阪。大阪のおばちゃんは、つねにあめちゃん(飴玉)を持ち歩いています。相手に何かしてあげたくなると、「これあげるから、がんばり!」と、あめちゃん専用の袋からわしづかみして、色とりどりのあめちゃんを握らせてくれます。わたしは選挙のたびに、たくさんのご婦人から、「これ舐めて、元気出しや!」「のど、たいせつにせなあかんで!」と、たくさんのあめちゃんを頂きます。ときに飴玉をつなげて、レイの首飾りのようにして、街頭演説をしているわたしの首にかけてくれます。もちろん、勝利を祈る折り鶴であったり、支援者の寄せ書きであったり、手作りのクッキーだったり、さまざまな物を頂きます。でもやっぱり、一番多いのはあめちゃんです。一回の選挙で段ボールが数箱になるほどです。そうしたあめちゃんのひとつひとつに、温かい「心」を感じます。あめちゃんは、あめちゃんにあらず。わたしにとっては、ガンジーのちびた鉛筆です。「心こそ大切なれ」。これをゆめゆめ忘れず、政治に向き合っていこう。わたしはそう、常に自身をいましめています。先日、地方の大学のキャンパスで、学生たちとの懇談会、「車座ふるさとトーク」に行かせていただきました。試験や部活で忙しい中、手を挙げて集まってきてくださった学生たちと、日本の財政について意見交換を行いました。その際、事前に質問を頂いておりました。驚いたことに、ほとんどの学生が質問としてあげたのは、「日本の財政のために、若者として何をすればよいですか?」でした。実は、わたしが予想していた質問は、「若い世代が借金を背負うことになるが、財務省はどうしてくれるのか?」だったんです。ところが、集ってくれた学生の意識はまったく逆でした。日本の未来のために「自分も何か役に立てないか」、どう努力すればよいか教えてほしいと。その若者たちの「心」に、わたしは強く打たれました。その「心」に、誠実に真面目に応えていこうと、改めて決意をいたしました。「心こそ大切なれ」。これからも、財務省職員の皆さんとともに、「心」ある予算や政策を作っていきたいと思います。ファイナンス 2019 Apr.1財務省広報誌「ファイナンス」はこちらからご覧いただけます。

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