ファイナンス 2019年4月号 Vol.55 No.1
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さて、この表を見ると2019年予算では、経済社会緊急対策が措置されたこともあり、家計向け117億ユーロ、企業向け187億ユーロの合計304億ユーロという大規模な負担減が行われているように見える。しかし、(1)対家計影響額の中で最大の負担減項目である「一般社会税増税を財源とした失業保険料・健康保険料サラリーマン負担分廃止」41億ユーロの負担減は、前述のとおり、2018年に保険料引下げに財源確保が先行し負担増になった影響が剥落しただけの単年度限りの特殊要因であるし、(2)対企業影響額の中で最大の負担減項目である「競争力と雇用のための税額控除の社会保険料軽減への転換」204億ユーロの負担減も、前述の通り、単年度限りの特殊要因であって2020年にはその効果は継続しない(2020年予算法案の提出時に同じ表を作ると、2020年にはその分が負担増と表示されることになるはずの)ものである。フランスはOECD統計によると国民負担率が対GDP比45.5%(2016年)と極めて高く(日本は30.6%)、その引下げが課題となっているが、この245億ユーロを除けば、平年度ベースの負担減は59億ユーロ(対家計は76億ユーロの負担減、対企業はむしろ17億ユーロの負担増)にとどまると見ることもできる*19。*19) 2019年予算法案の議会提出時に、対家計・対企業あわせて248億ユーロの負担減と発表されたことから、我が国でもフランスが大規模減税を実施すると報道されたが、単年度限りの特殊要因だった245億ユーロ分を考慮すると、実は平年度ベースの負担減は3億ユーロのみと見ることも可能であった。7社会保障財政の改善かつて、フランスは社会保障財政の赤字に悩まされ、1991年にほぼすべての所得に対して一律に課税を行う一般社会税を導入したのに続き、1996年に社会保障債務返済金庫(CADES、カデスと呼ぶ)を設立して社会保障の累積債務を承継させ、新たに一般社会税と同様の課税ベースである社会保障債務返済税を導入して社会保障債務の返済に充てることとし、2009年には一般社会税の一部も社会保障債務の返済に充てることとした。さらに、医療費など社会保障給付の抑制にも取り組んでいる。社会保障財政に関する政府の目標は、(1)2020年における社会保障財政収支全体の均衡及び(2)2024年における社会保障債務残高ゼロとなっているが、社会保障財政収支の改善は近年急速に改善しており、2020年には一旦黒字になることが見込まれている(参考9)。また、社会保障債務残高は、社会保障債務返済金庫に承継された総額2,600億ユーロの債務のうち2019年末までには1,710億ユーロが返済される見通しであり(参考10)、同金庫は2024年末までに債務の全額を償還し終わる予定としている。このように、債務償還分を含めると、近年のフランスの社会保障財政は、既に黒字化しており、かつての赤字体質に比べかなりの変貌を遂げている。(参考7)一般予算の歳出歳入歳入:2,914億ユーロ歳出:3,961億ユーロ歳入:2,967億ユーロ歳入:3,032億ユーロ歳出:4,000億ユーロ歳出:3,899億ユーロ(億ユーロ)歳出(2018当初)歳出(2019予算案)歳出(2019当初)歳入(2018当初)歳入(2019予算案)歳入(2019当初)4,0003,0002,0001,0000EU向け譲与199215214地方向け譲与403405406負担金対応支出335353一般政策経費(一般予算)3,2633,2883,327財政赤字867財政赤字994財政赤字1,087税外収入132125125その他の税201296293法人税259315314所得税725705704エネルギー産品内国消費税136170131付加価値税1,5461,3031,292負担金収入335353 ファイナンス 2019 Apr.372019年予算と黄色いベスト運動から見たフランスの今 SPOT

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