ファイナンス 2019年4月号 Vol.55 No.1
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(3)賃料・協力金・寄付金などの負担金収入が53億ユーロの合計2,914億ユーロ(37.9兆円)となっている。そして、この歳出と歳入との差額である一般予算の財政赤字は1,087億ユーロ(14.1兆円)となっている*16。2019年予算法案と最終的な2019年予算法を比べると、一般政策経費が39億ユーロ増加しているが、このうち26億ユーロ分は、経済社会緊急対策における低所得者向け活動手当の引上げなど活動手当の増加である。一方、歳入は53億ユーロ減少しているが、このうち38億ユーロ分は、燃料増税の撤回による影響となっている。このように、黄色いベスト運動への対策が2019年予算に大きな影響を及ぼしたことが分かる。なお、2018年予算法と2019年予算法を比べると、付加価値税収が1,546億ユーロから1,292億ユーロへと大きく減少している。これは、競争力・雇用税額控除(CICE)の社会保険料軽減への転換その他の措置により不足する社会保障財源を賄うため、2019年予算法において付加価値税収の26%分*17を社会保障財源に割り当てその分が一般予算の財源に入らなくなったことによる*18。フランスでは、あらゆる所得に課税され国民が広く負担する一般社会税・社会保障債務返*16) 附属予算と特別会計も合わせると1,077億ユーロ(14.0兆円)の赤字。*17) 2019年予算法第96条により改正された社会保障法典L131-8条第9号に規定。なお、2018年も付加価値税収の5.93%分が社会保障財源に充てられていた。*18) 我が国は大部分の税収が一般会計を経由するが、フランスでは特定財源として使途が決められた税収は、我が国の譲与税のように「一般予算」を経由することなく支出を行う会計又は金庫に直入するため、一般予算だけを見ていても税収の全貌は把握できない。済税がすでに大きな社会保障財源となっているが、これに加え、付加価値税(消費税)の4分の1超が社会保障財源に充てられることになったことは、非常に興味深い。ここで、税制改正・社会保障制度改正による国民負担の増減影響額についても見ておきたい。2019年予算についても政府による予算法案・社会保障財政法案の提出時点で、政府から増減影響額の表が示されたが、議会修正を経て最終的に成立した予算法・社会保障財政法をベースにこの表が作り直されることはなく、また、予算法成立後の当初予算・税制の姿を議会や政府において分かりやすく解説した文書もほぼ存在しないため、議会での修正内容をしっかり調べないと最終的な予算・税制改正・社会保障制度改正の全容を把握できないという問題がある。そうした制約の下、2019年予算法案提出時の増減収影響額の表を予算成立時までの情報を勘案して筆者において修正した2019年予算法の増減収影響額の表は(参考8)のとおりである。なお、ここには、本年3月6日に議会に提出され未成立のデジタル大企業課税法案によるデジタル事業課税及び大企業に対する法人税率引下げ1年延期に伴う税収増も加味している。(参考5)経済社会緊急対策に盛り込まれた購買力向上対策等年末ボーナスへの課税・社会保険料免除12月11日から2019年3月31日までに支給されるボーナスにつき1,000ユーロを上限に所得税・一般社会税等・社会保険料免除。〔経済社会緊急対策法にて措置〕残業手当への課税免除2019年社会保障財政法による2019年9月開始の社会保険料免除を1月開始に繰り上げるとともに、5,000ユーロを上限に所得税免除も追加。(所要25億ユーロ程度)〔経済社会緊急対策法にて措置〕一部退職者への一般社会税の増税撤回2018年社会保障財政法により年金収入1,300ユーロ/月以上(単身者・手取り・他収入なしの場合)の退職者の税率を6.6%から8.3%に引き上げたが、2,000ユーロ/月未満の退職者についてはこの増税を撤回。(所要13億ユーロ)〔経済社会緊急対策法にて措置〕最低賃金100ユーロ/月引上げ低所得者に支給する「活動手当」を90ユーロ/月増額。最低賃金見直しと合わせ100ユーロ超/月の収入増確保。同手当の支給開始は2019年2月5日からで1月分に遡って支給。(所要25億ユーロ)〔経済社会緊急対策法他にて措置〕ガソリン・軽油等の燃料税の増税撤回2018年予算法で決まっていた2019年以降の増税を撤回。2019年予算法案の軽油に対する燃料税の軽減税率廃止を削除。(40億ユーロ程度の減収)〔2019年予算法の議会修正〕(参考6)経済社会緊急対策のための主な財源措置大企業向け法人税率引下げの延期2018年予算法により法人税率につき、現行の33.33%を2019年初から31%に引き下げることとしていたが、売上高2.5億ユーロ超の大規模法人に対しては、これを一年延期。(増収18億ユーロ)〔本年3月に議会に提出したデジタル大企業課税法案にて措置〕デジタル課税の導入EUレベルでの合意が見送られた中、2019年1月1日からフランスで単独導入。仲介プラットフォーム事業、オンラインにおけるターゲティング広告、広告目的での利用者データの販売の3事業のフランスでのサービス提供の対価としての売上金額に3%の税率で課税される。課税対象企業は世界規模で7.5億ユーロ超の課税対象デジタル事業売上高を有し、かつ、フランスにおいて2,500万ユーロ超の課税対象デジタル事業売上高を有する企業又は企業グループ。(増収5億ユーロ)〔本年3月に議会に提出したデジタル大企業課税法案にて措置〕コペ減税改正案の見直し企業が2年超保有する株式等の譲渡益のうち88%は課税利益に含めないこととしている(コペ減税)。2019年予算法案で、この課税利益に含めない割合を88%から95%に引き上げる改正が盛り込まれていたが、これを削除。(増収2億ユーロ)〔2019年予算法の議会修正〕歳出削減2019年予算の執行時の節約で対応。(10~15億ユーロの捻出)36 ファイナンス 2019 Apr.SPOT

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