ファイナンス 2019年4月号 Vol.55 No.1
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5経済社会緊急対策いつも1時間は演説を行い、話が長くて難しいと言われることもあるマクロン大統領は、この日はわずか13分で演説を終えた。分かりやすさの観点から一定の効果があったと思われるこの短い演説で、同大統領は、フィリップ首相が表明した燃料増税の撤回に加え国民の収入を増やす購買力向上対策を表明する一方で、投資促進のため富裕税の対象から金融資産を外した改正は元に戻さないとも表明し、「国民の購買力向上」「投資促進・企業競争力向上」という同大統領の主要原則も維持する形をとった。また、税の在り方、気候変動問題、国の組織論、移民問題など国の重要な問題を、議会に限らず、自治体の長を対話者としながら大統領自身がフランス中で自治体の長と会って議論するような「大会議」を実施することも表明している。このマクロン大統領の演説を受け、政府は12月19日に議会に「経済社会緊急対策法案」を提出し、同法案は21日(金)に成立して、年末の26日に公布されている*14(参考5、財源措置は参考6)。これらの対策に必要な財源は100億ユーロ(1.3兆円)で、一定額の財源措置を講じるものの、2019年の財政赤字対GDP比は、2019年予算法案の▲2.8%から▲3.2%に悪化する見込みとなったが、上述の競争力・雇用税額控除(CICE)の社会保険料軽減への転換に伴う単年度の特殊要因(▲0.9%分の悪化)を除けば、実質的な財政赤字は▲2.3%と政府は説明しており、財政再建との関係でも、財政赤字対GDP比*14) 経済社会緊急対策法(LOI n°2018-1213 du 24 décembre 2018 portant mesures d'urgence économiques et sociales)。*15) 2019年予算法(LOI n°2018-1317 du 28 décembre 2018 de nances pour 2019)。なお、2018年補正予算法(LOI n°2018-1104 du 10 décembre 2018 de nances recticative pour 2018)が11月26日に議会で成立し、12月11日に公布されているが、ここでは、2018年の一般予算につき74億ユーロの歳入補正増、9億ユーロの歳出追加の結果、65億ユーロの収支増の補正が行われている(付属予算と特別会計も合わせると57億ユーロの収支増)。3%以内との方針を維持した形となった。さらに、3月26日にはフランスの国立統計経済研究所(INSEE、インセと呼ぶ)が2018年の財政赤字対GDP比を▲2.5%と公表した。2018年末時点の予測から0.2%改善しており、単年度の特殊要因を勘案しなくても▲3.2%とされた2019年の財政赤字対GDP比が▲3.0%に収まる可能性もある。62019年予算法の成立2019年予算法案は9月24日の議会提出の後、10月9日、憲法上先議とされる国民議会で第一読会が始まり11月20日に採決、続いて元老院に送付されて第一読会が行われ12月11日に採決されたが、両院の案文が不一致であるため12月12日に両院協議会が開催されるも合意案文の作成に至らず、国民議会で第二読会が行われ12月18日に採決(ここで燃料増税撤回についての第一読会での元老院の修正を容認)、続いて元老院の第二読会が行われ12月19日に国民議会の案文を否決したため、首相の要求に基づき12月20日に国民議会が単独議決して2019年予算法が成立した*15。一般予算の歳出歳入を2018年予算法、2019年予算法案及び2019年予算法で比較したのが(参考7)である。2019年予算法で決まった歳出は、(1)一般予算における一般政策経費が3,327億ユーロ(2)予算上政策経費に計上せず(したがって予算法による歳出統制の枠外で)賃料・協力金・寄付金などの負担金収入を歳出に直接充てる「負担金対応支出」が53億ユーロ(3)地方自治体向け譲与が406億ユーロで、EU向け譲与が214億ユーロの合計4,000億ユーロ(52.0兆円)となっている。一方、歳入は、(1)所得税が704億ユーロ、法人税が314億ユーロ、エネルギー産品内国消費税が131億ユーロ、付加価値税が1,292億ユーロ、その他の税が293億ユーロ(2)税外収入が125億ユーロ2018年11月24日の黄色いベスト運動(凱旋門脇の光景) ファイナンス 2019 Apr.352019年予算と黄色いベスト運動から見たフランスの今 SPOT

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