ファイナンス 2019年4月号 Vol.55 No.1
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している。なお、この審議の過程で、2017年の補正予算法案が2本議会に提出され成立しているが、特に、オランド政権下での配当課税を巡る訴訟に敗訴し多額の税還付を余儀なくされたため、財政規律維持の観点から、2017年の年末近くなって、2017年の利益に対する法人税率を大企業に関していきなり5%~10%も上げてしまう規定を第1次補正予算法案に盛り込み、議会もこれを短期間のうちに可決成立させたのは筆者にとってかなりの驚きであった。(参考1)2017年第1次・第2次補正予算法の概要○ 第1次補正予算法:11月14日成立、12月1日公布。欧州司法裁判所によりEU指令違反、仏憲法院により違憲とされたオランド政権下での「配当への3%課税」の還付財源の一部を確保するため、2017年のみ、法人税率を、通常の33.33%に対し、売上高10億ユーロ超の法人に対して38.33%、売上高30億ユーロ以上の法人に対しては43.33%に引き上げる臨時増税を規定(当時、この増税を行わないと、財政赤字対GDP比3%超えの恐れがあると言われていた)。○ 第2次補正予算法:12月21日に成立、12月28日公布。執行中の2017年予算の執行状況に合わせた予算の補正を行うほか、所得税の源泉徴収制度の2019年1月1日からの導入、延滞税の利率引下げ等を規定。(参考2) 2018年予算法及び今後5年の 財政プログラム法の概要(1)経済の転換のための投資・イノベーションの促進のための措置の実施(金融所得に対する統一税率30%の導入、連帯富裕税の不動産富裕税への改組、法人税率の引下げ)(2)家計の購買力の向上のための措置の実施(住居税の減税、一般社会税の税率引上げにより財源を確保した上で従業員負担分の失業保険料・健康保険料の廃止)(3)財政赤字対GDP比3%以内のEUの目標を*5) この問題は当時あまり大きく議論にならなかったが、これは、この負担増が、個別措置としてはかなりの大きさ(当時の見積は37億ユーロ)だったにもかかわらず単年度の一時的影響であるとして、2018年予算法案の政府説明資料における国民負担増減一覧表では欄外注記され国民負担増減には合計されなかったこと、また、政府が、民間の給与所得者だけを見れば2018年1月から負担減(一般社会税率引上げが所得の1.7%に対し、保険料減免が所得の▲2.2%)となり購買力の向上につながると説明していたことにもよると思われる。2017年から達成見込み(決算時には▲2.7%を達成)(4)大統領任期の5年間で、債務残高対GDP比の約5%低下を見通すとともに、欧州でも最高水準にある歳出対GDP比の約3%低下及び国民負担率の約1%低下を目標に設定この2018年予算のうち、昨年末からの黄色いベスト運動との関連で重要なのは次の3つの税制・社会保障制度改正である。1点目は、一定以上の資産を所有していると毎年課税される連帯富裕税の課税対象から投資促進のために金融商品を除き、不動産のみに課税するよう不動産富裕税への改組を行った点である(なお、これとは別に相続税も存在することに留意が必要)。この改組については、マクロン大統領の選挙公約に掲げられていたものの、富裕層優遇として問題視され、議会においても世論への配慮の観点から、最終的に不動産富裕税と同様の課税をヨット等にも拡大する修正を盛り込んでいる。2点目は、やはりマクロン大統領の選挙公約に掲げられていたサラリーマン負担分の健康保険料・失業保険料(所得の3.15%相当)の廃止である。これは、給与・事業収入や年金・失業手当等の社会保障を含むあらゆる収入に課税される一般社会税の税率引上げを財源としており、いわば、国民皆の負担で労働者の負担を下げ、労働者により報いる考え方をとったものであり、給与・事業収入等に対する税率は7.5%から9.2%へ、年金(単身者の場合手取り月約1,300ユーロ以上)に対する税率は6.6%から8.3%へと引き上げられた(6割の年金等生活者に影響、年金を月約1,300ユーロもらっていない人の税率は3.8%に据え置き)。さらに、保険料負担の廃止が2018年1月と10月の2段階で行われたのに対し、一般社会税の増税は2018年1月に一気に行われたため、増税が負担減よりも先行し、2018年は約40億ユーロ(約5,200億円)の一時的な負担増が国民に生じてもいた*5。3点目は、ガソリン・軽油等に対するエネルギー産品内国消費税率の引上げである。フランスは、地球温 ファイナンス 2019 Apr.312019年予算と黄色いベスト運動から見たフランスの今 SPOT

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