ファイナンス 2019年3月号 Vol.54 No.12
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貿易関係者間で一気通貫に情報共有できる貿易プラットフォームを構築し、事務手続き効率化と利便性向上を図ることの重要性が報告された。2016年に行われた貿易金融をテーマとした信用状取引におけるブロックチェーンの適用、外航貨物海上保険の保険証券におけるブロックチェーン適用に向けたPoC(コンセプト実証)の紹介を通して、貿易業務全体へのブロックチェーン技術を適用することの有効性と課題が示された。貿易に関わる情報連携を担う仕組み作りは社会実装に向けたステップに入っている。2017年には、ブロックチェーン技術を活用した貿易情報連携基盤の実現に向けて、株式会社NTTデータは、貿易関係者である銀行、保険、総合物流、輸出入者等の各業界を代表する13社でコンソーシアムを発足させた。そこでのディスカッションの模様が紹介され、貿易取引における業務上の課題は、各社とも貿易関連書類の転記、チェック・原本の扱いであり、貿易情報の電子的な連携は必要であるという認識に至ったことが示された。業界横断で実機検証を行い、貿易プロセスの改善及びコスト削減効果が期待されている。また、国内だけでなく海外(シンガポール等)でも実証実験を行っていることが報告された。他国でも既に、政府や公共団体などが積極的に関与して貿易手続きの効率化・電子化を目指す取り組みが存在している。株式会社NTTデータは国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「貿易手続の効率化」実証実験の事業者に採択され、グローバルな競争に負けないように、官民連携し*5) 国際貿易において、船荷証券をはじめとする膨大な書類を電子化して企業間でやりとりすること。て取り組んでいることが紹介された。今後の社会実装にむけて、標準化、原本性、進化し続けるブロックチェーン技術という3つの課題が挙げられた。貿易EDI*5の標準化の取り組みは、企業間で異なる文書フォーマットなどの阻害要因があり、導入がなかなか進まない現実があったが、近年発達してきた非構造化データ収集技術やAIを組み合わせることで解消を目指すことが示された。船荷証券の電子化については、現状は法的整理がされていないと指摘。ブロックチェーンの特徴の1つである耐改ざん性により原本性の確保は可能であり、貿易プラットフォームは法的側面から原本性の確保が必要であることが示された。情報の秘匿性確保や、今後ブロックチェーン技術がどう発展するかについては、特に多くの質問が寄せられた。技術の実用化に向けて、世界的に検討が進んでいるところ、株式会社NTTデータは主要なブロックチェーンコミュニティに参画し、技術の実用化に向けた活動を行っており、貿易手続きの効率化・高度化を実現し、我が国の競争力強化に寄与していきたいと報告された。3.終わりにワークショップ当日は多数の質問が出て活発な議論が展開され、非常に有意義なワークショップになったのではないかと考えている。本企画に多大なるご貢献をいただいた、外部講演者、参加者、その他関係者の皆様に厚く御礼申し上げたい。 ファイナンス 2019 Mar.67シリーズ 日本経済を考える 87連 載 ■ 日本経済を考える

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