ファイナンス 2019年3月号 Vol.54 No.12
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近年、多様な業界で導入が進むAIについて、関連する各種セミナーやCEATEC等の展示会に足を運び、貿易実務及び税関行政に活かせるのか、応用できるとすれば具体的にどのような業務内容か、独自に考察した結果を報告した。現状、通関を含む貿易業務には二つの課題が存在する。一つ目は、越境電子商取引の増加等を受けた輸出入申告件数の増加や、地域貿易協定の進展による通関業務の高度化・複雑化により、官民ともに業務量は増加しているにも関わらず、税関職員数・通関業従業者数は横ばいであり、今後深刻な人手不足が予想される点である。二つ目は、米国及び中国のデジタルイノベーションによる国際競争の激化である。いわゆるGAFA/BATHといった米中のIT企業群が、ビッグデータを駆使したマーケティング、サプライチェーン管理、顧客管理、輸送効率化、電子商取引のプラットフォーム構築により貿易を革新。世界中の消費者や企業の行動を吸い上げ、圧倒的に優位な立場でグローバルビジネスを展開する中、日本が苦戦しているという危機感が近年共有されてきたところである。このような問題意識から、業務効率化と国際競争力強化のために、通関実務の分野においてもAIの導入を検討すべき。本ワークショップにおいては、AIの歴史及びニューラルネットワークと呼ばれる計算回路の仕組みを、シンプルな手書き文字の画像分類を実装して解説を行った上で、貿易実務及び税関行政への応用可能性を実例と共に列挙した。税関行政への導入について一例を挙げると、埠頭・空港監視カメラの画像分析に応用可能性が高いと考えられる。貿易実務への導入については、インボイス等の文字認識による輸出入申告情報の自動入力、需要予測、画像認識による出荷前自動検品や輸送品質確認等が挙げられる。中には、実際に導入されたことで業務効率化が達成されたとして、具体的数値と共に企業が公表している例もある。当日の質疑では、チャットボットのようなAIを問合せ対応に導入した場合、回答の根拠がブラックボックスであるという難点が挙げられたが、これに関して、回答を導き出す過程を可視化する技術の開発が進んでいる点にも触れたところである。ただし、AI導入の留意点としては、(1)AIで解決したい課題が明確になっているか、(2)学習させるデータが十分に存在するか、(3)AI導入効果が導入・維持コストに見合うか、(4)サービス利用時のデータがどこに保存されるか、といった点が挙げられる。例えば、音声認識のサービスを利用するにあたり、社内会議の情報が自動的にサービス提供会社のクラウドに保存され、機密情報が社外で利用される可能性も否定できない。このように個別に慎重な検討が必要であるものの、グローバル競争の中での日本の生き残りをかけて、官民ともに先進技術を取り入れつつ進化し続ける必要があると考えられる。2.6. 広がるブロックチェーン活用 ~貿易分野への適用に見る課題と展望~(講演者:株式会社NTTデータ金融事業推進部デジタル戦略推進部部長 赤羽喜治)ブロックチェーン技術は貿易分野への活用が期待され、今回のワークショップでは、現在までの取り組みと今後の課題について論じられた。ブロックチェーン技術はビットコインを実現するための基幹技術として開発されたものであり、P2Pネットワークを利用して分散型で信頼できる状態を創り維持することを可能にする仕組みである。今では汎用的な分散型台帳技術として仮想通貨以外の領域に拡大し、貿易における情報分野へ活かすことが出来ると報告された。貿易取引は国をまたがって多くの関係者が情報連携を行っており、紙やFAX、e-mail、PDFなどでのやりとりが非常に多く残っているため、貿易関連企業の情報連携にかかる負担が大きく、時間、コスト削減の妨げになっている。ブロックチェーン技術により、66 ファイナンス 2019 Mar.連 載 ■ 日本経済を考える

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