ファイナンス 2019年3月号 Vol.54 No.12
69/80

2.4. グローバルバリューチェーンと自動車及びその部分品・附属品の貿易(講演者:政策研究大学院大学客員教授 長瀬透)関税局・税関に加え、世界180以上の国と地域が加盟する国際機関である世界税関機構に長年勤務した長瀬客員教授は、日本と通商関係の強い各国の関税政策や通関制度を継続して調査・分析している。今回の講演では、グローバルバリューチェーン(以下、GVC)が広がる中で、日本の主力輸出産業である自動車に係る各国の関税率の差異及び関税分類実務に係る諸問題について解説がなされた。初めに、GVCについての説明がなされた。GVCとは、サプライチェーンの中で各国が中間財に様々な付加価値をつけるという貿易形態のことである。各国に分散しているサプライヤーをまとめるためには、効率的なサプライチェーンの実現と円滑な貿易手続きが必要であると同時に、サプライチェーンのセキュリティの確保が重要な課題であると指摘。GVCの中では50~60%の輸出入が中間製品であるといった世界貿易機関の報告等も紹介された。次に、このような貿易形態の中で、円滑な貿易手続きを行うために定められたHS条約について説明がなされた。HS条約とは、貿易取引される商品について、国際的に統一された分類が行われるように、世界税関*4) 1960年代の米国とEEC(当時)の貿易戦争で、EECが米国からの鶏肉の輸入に高関税を課した報復措置として、米国がEECから輸入される貨物自動車に25%の高関税を課し(これを通称chicken taxと呼ぶ)、未だその関税が維持されている。機構にて開発された各国共通の商品分類体系であり、今回は特にその共通ルールである通則2(a)について説明があった。通則2(a)とは、(1)未完成の物品で、完成した物品としての重要な特性を提示の際に有するもの、(2)完成した物品((1)未完の完成品を含む)で、提示の際に組み立ててないもの及び分解してあるもの、を完成品とみなすことを定めている通則である。以上を踏まえ、自動車及びその部分品・附属品の関税率に係る諸問題について、通則2(a)が適用されたケースも含めて、途上国や米国で起きた事例を用いて詳しく論じられた。途上国では、部分品の方が完成車に比して一般に関税率が低いことから、完成車を前部と後部に切断して部分品として別々に輸入し、輸入後にこれらを合体して、完成車に課される高関税を回避する事例があると指摘。一方、米国では、chicken tax*4に関する問題が言及され、通関後に貨物自動車に改造して販売されるスポーツ用多目的車の事例等、豊富な裁判例を題材にタリフエンジニアリングの事例が紹介された。自動車に係る関税率の差異を利用した、国や企業が取る行動について、議論は大いに盛り上がった。最後に部分品と附属品についても言及があり、貿易業務や貿易に係る研究において、自動車の部分品・附属品と言われた場合に、その範囲がHS上どこまでを指すのか留意する必要があると触れられた。2.5. AI(人工知能)の貿易業務への応用事例(発表者:財務総合政策研究所主任研究官 水尾佑希) ファイナンス 2019 Mar.65シリーズ 日本経済を考える 87連 載 ■ 日本経済を考える

元のページ  ../index.html#69

このブックを見る