ファイナンス 2019年3月号 Vol.54 No.12
68/80

災企業へ人的・物的支援があったことにより、サプライチェーンが比較的早く復旧したため、自動車輸出額も3か月ほどで回復したのではないかと思われる。しかし、電力供給制約など間接的な影響を考慮出来ていない点や、今回のワークショップで質問があったように、サプライチェーンの断絶が工場被災による生産停止なのか道路被災による物流停止なのか判別できない点は今後の課題とする。2.3. 欧米の保護主義的通商政策がグローバル・ロジスティクスに与える影響(講演者:株式会社日通総合研究所リサーチフェロー 田阪幹雄)米国においてこれまで、1994年のNAFTA発効時や9.11後のセキュリティ政策の大転換など、グローバル・ロジスティクスの最前線で長年対応してきた田阪リサーチフェローは、その豊富な経験から現在の欧米における保護主義を独自の物流視点で観察・分析。今回の講演では、英国のEU離脱(Brexit)や米国トランプ政権の関税引上げ、NAFTA再交渉など、保護主義的動きの整理とともに、それらが貿易業界・物流事業者に対して与えうる懸念事項が提示された。まず欧州では、シェンゲン協定やEEA等、EU周辺の欧州の枠組みが有機的に機能していることで、今のEUの枠組みが存在している点を解説。貿易・物流の*1) 英領北アイルランドとEU加盟国アイルランドの間の約500kmにわたる国境には、現在「目に見える国境」は全くない。*2) 例えば自動車産業でいえば、英国内には組立工場は多く存在するものの、部品工場は国内には少なく、部品は国外から輸入している。EU各国間での手続きが煩雑化した場合、製品リードタイムが長くなり、国内の自動車産業に影響を与えるであろうと述べていた。*3) メキシコでは時給16ドル以上での生産は厳しいと考えられる。自由度の観点から見ると、欧州地域はそういった枠組みによって様々に分けられるものの、概して自由度は高く、単一市場である。この単一市場からの英国の離脱(Brexit)について、以下のように詳しく説明があった。EU離脱協定書は、11月25日にEU首脳により承認された。2019年3月29日を期日とする離脱協定の締結に向け、残すは英国議会での承認となったものの、離脱協定に折衷案的な側面もあることから、英国では反発が拡大している。結局12月10日に、メイ首相は離脱案の採決を見送ると表明した。ここでは、EUと英国の双方が同意せず、無秩序離脱に突入した場合、物流面において起こりうるであろう課題が挙げられた。具体的には、英仏や英愛*1間での税関施設や通関手続きの構築、EU各国間の輸出入手続きへの対応、英国工場に配送されるEU製部材の取り扱い等*2が挙げられた。次に米国関連の貿易協定・貿易摩擦について説明がなされた。まず、米中貿易摩擦の激化についてである。これは日本からの対米輸出に直接は影響を与えることはないだろうが、対米輸出を行う中国企業と日系企業の中国拠点に対する、日本からの部品の輸出には影響をもたらす可能性が指摘された。また、原材料に対する高関税によって、米国の自動車製造業は輸出競争力を失い、米国製造業が縮小・停滞する恐れがあるということも触れられた。続いて、北米自由貿易協定(NAFTA)から米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)への移行について言及。これは、7品目の重要部品につき、米国・メキシコ・カナダの何れかの生産を必須と定めると同時に、完成車の域内原産割合を現行の62.5%から75%へ引き上げたものだが、これにより、日本等サプライヤーの米国・メキシコ・カナダへの進出や拡大が予想されると述べられた。また、自動車部品の40~45%以上を時給16ドル以上の地域*3で生産することも義務付けられたことにより、メキシコ生産を拡大してきたサプライヤーや、それに対応してきた物流企業のメキシコ拠点の規模は縮小・撤退を余儀なくされる可能性も挙げられた。64 ファイナンス 2019 Mar.連 載 ■ 日本経済を考える

元のページ  ../index.html#68

このブックを見る